新生児から乳児期の気になる症状について

赤ちゃんの様々な感染症に関して

8.持続する発熱

一般に小児では解熱剤を使用しなくても5日以上の発熱を伴う疾患は少ないのです。もし5日以上の発熱が続いていたら、先ず病気の重症度判定のためのスクリーニングとして白血球と炎症反応の強さを見るCRPという検査をします。採血は指先を針で刺して、少量の血液で検査可能です。この両者の数字と患児の状態で入院治療の必要の有無を判断します。

突発性発疹は、生後6か月からの赤ちゃんが最初に経験する高熱を伴う疾患です。熱の割には機嫌が良くてせきや鼻水もなくて食欲や機嫌も良いのですが、時に熱性けいれんを起こすこともあります。3-5日の発熱が急激に解熱し、主に体幹に散在性の発疹が解熱してからほぼ同時に出現するのが特徴です。発疹は手足には少なく、解熱後の方が機嫌は悪くて下痢になる場合もあります。

最初は39度以上の高熱で始まり、口の周りに水疱が舌には口内炎ができて歯肉が真っ赤になる単純ヘルペスウイルスの初感染による歯肉口内炎という疾患があります。最初から症状がすべてそろっていればすぐに診断がつきますが、発熱当日では風邪の疑いと診断されてしまいます。口の周りの水疱や赤い歯肉のような特徴的な症状が出たら、もう一度受診すると正確な診断がされてヘルペスウイルスの治療薬の投与が受けられます。

発熱の治療をしているにもかかわらず、38.5度以上の高熱が持続する病気があります。その代表は川崎病で、強い炎症所見(CRPの高値)が存在します。原因は不明であり、発熱、発疹、頸部リンパ節腫脹、眼球結膜の充血、咽頭発赤、イチゴ舌、BCG接種後の皮膚の発赤などの特徴的な症状を呈するので、小児科医を受診すれば即座に診断がつくでしょう。

治療は、免疫グロブリンの大量点滴療法とアスピリン療法を実施するために入院治療が必要です。心臓の冠動脈の動脈瘤の合併が無ければ予後は良好です。時に冠動脈瘤の閉塞による心筋梗塞で突然死することもあります。冠動脈病変が無い場合でも、退院後5年間の定期的な管理が必要です。

せきや咽頭痛などの気道感染の所見がない場合には、尿検査が必要です。乳児の場合には尿を採取するための尿パックがありますので、これで採取します。咳などの風邪症状が無い高熱の場合に鑑別すべき疾患として腎盂腎炎があります。膀胱炎だけでは発熱せず、生まれつきの尿管膀胱逆流現象(VUR)のために膀胱炎の原因菌である大腸菌が尿管に逆流して腎盂に感染して腎盂腎炎を起こします。

治療後の尿路感染症に対する長期予防のための薬剤投与でVURの程度が改善することがあります。高熱および尿に膀胱炎所見が認められたら抗生剤治療を開始(外来または入院)し、治癒してから膀胱造影をして尿管への逆流の程度を評価することも必要です。

扁桃に白色の偽膜が認められるEBウイルスの初感染である伝染性単核球症も高熱が1週間持続するが、慢性に移行する場合もある。またアデノウイルスによる咽頭発赤と結膜の充血を伴う咽頭結膜熱(プール熱)は4-6日間程度の発熱が続き、このほかに出血性結膜炎、流行性結膜炎、出血性膀胱炎なども起こします。アデノウイルスは簡易検出キットで診断できます。

9.犬やオットセイが鳴く様な変なせき(犬吠様咳嗽)とかすれ声(仮性クループ)

突然に犬やオットセイが吠えたりするような変なせきが出現し、声がれの症状を伴う急性喉頭炎(仮性クループ)があります。特徴的なせきなので異変に気付きやすい。喉の奥の声帯部分(喉頭)のウイルスや細菌感染が原因です。喉頭部の腫れを軽減するアドレナリンとステロイドの吸入を行います。内服はステロイドのシロップ剤を投与します。明け方にせき込み発作と呼吸困難が増強するので、眠れない場合にはその時点で救急外来を受診すべきです。急性喉頭炎は繰り返し起こすお子さんがいます。

特徴的なせき、声がれと高熱を伴い、呼吸困難が進行性の場合には急性喉頭蓋炎が考えら、重症化します。酸素投与、気道確保、抗生剤投与のために厳重な入院管理が必要です。

10.RSウイルス感染症

RSウイルスは冬季に風邪を起こすウイルスの一つです。しかし4か月未満の乳児では、発熱、鼻汁、せき、不機嫌、脱力、食欲不振などの症状と呼吸困難、低酸素症を伴い細気管支炎を起こすことがあります。特効薬はありませんが、重症の場合には入院して輸液、酸素投与、鼻汁吸引などを行います。

予防のために、在胎35週6日までの早産児は、RSウイルスに対するモノクローナル抗体であるシナジスを投与します。

11.百日咳

現在では生後3か月になると、昔の3種混合ワクチンにポリオワクチンの混合された4種混合ワクチンを接種するために、赤ちゃんが百日咳にかかることはほとんどありません。しかし最近では大人の百日咳が流行しており、予防注射接種目前の新生児や乳児が感染することが報告されています。

百日咳に罹患すると、14日以上続く激しいせき込みとレプリーゼという息を吸入するときの「ヒューという汽笛のような音」が特徴的で、せき込みによる目のまわりの点状出血も目立ちます。せきがひどいときには録音して小児科医に相談しましょう。

しかしワクチン接種前の生後3か月未満の乳児期に百日咳に感染すると、せき込みはほとんどなくて逆に無呼吸発作を起こしチアノーゼが出現することがあります。また白血球が著増するので、血管の詰まりを予防するために交換輸血をすることもあります。3か月未満の乳児の百日咳は入院治療をします。周囲の大人や子供が百日咳に罹患した場合には、乳児に感染させないように感染予防が必要です。ワクチン接種が予防対策のかなめです。

12.下痢と脱水症のポイント

多くの場合にはウイルスや細菌などの病原体の感染による。ロタウイルスやノロウイルスによる下痢の場合には、集団発生することが多く冬場に流行します。ロタウイルス感染症の場合には短期間の発熱、頻回の嘔吐と下痢は水溶性の便ですべてではないが薄い黄色や白色となることが有名です。ノロウイルスも集団発生しますが便は白くなりません。嘔吐は翌日には減少します。

ウイルス性の下痢便は酸っぱい匂いがします。ウイルスにより腸粘膜の微絨毛が障害されるために乳糖分解酵素が減少して2次性の乳糖不耐症になりやすく、乳糖がブドウ糖に消化されずに乳酸ができて酸臭となります。ウイルス性急性胃腸炎では脱水症が心配となります。ポイントは排尿回数が目安になり、およそ1日2回以上の排尿があれば心配いりません。

脱水症の簡単な重症度分類では、体重減少の程度で決められています。普段の体重の3%以内の減少は軽度脱水で機嫌は良好です。3~9%の減少は中等度であり元気がなくて刺激に過敏となり、10%以上の体重減少は重症脱水症で意識が不明となり、眠りがちで入院して点滴治療を要します。

中等症までの脱水であれば点滴はしないで経口補水液で治療します。小児、特に乳児では日ごろの体重測定が大事で、記録を残しておきましょう。また、脱水の症状は排尿回数や尿量の減少のほか、皮膚や口の中が乾いていたり、おなかの皮膚の緊張が低下して張りがなくなったりします。活気が低下して、ウトウトしだしたら要注意です。また、興奮気味に泣き叫ぶ症状も緊急受診の目安です。

細菌性の下痢の場合には、発熱し、血便、粘液の排泄、悪臭があることが多い。O157を代表とする腸管出血性大腸菌、病原性大腸菌、カンピロバクター、サルモネラなどによる食中毒によることが多い。鑑別診断と確定診断のために便の培養が必要です。O157感染症では、菌の産生する毒素により血尿の存在が重症な溶血性尿毒症症候群(HUS)の診断に役立つので、検尿も行います。O157感染症の場合には、抗生剤を投与するタイミングに対する配慮が必要です。

ウイルス性の場合には抗菌剤の投与は必要ありません。また、細菌性の場合には下痢止めは使用しないのが原則です。頻回の下痢や嘔吐のために脱水や栄養障害になり体重が減少するので、診察するたびに体重測定をすることは経過観察中の患児の状態を客観的に評価する指標ですので重要です。

また、感染症以外にも下痢が起こります。先天性の吸収障害や消化酵素の異常による下痢、食物アレルギーやまれな原因ですが免疫不全でも下痢を合併します。年長児の血便を伴う下痢の中には、潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患があり、発熱、関節痛などの腸管外症状にも注意が必要です。

13.口腔内のカビ、鵞口瘡(がこうそう)

乳児のほほの内側に白いミルクカスのようなものが時々付いていることがあります。これはカンジダ症で、鵞口瘡という病気です。痛みのために哺乳量が低下することがあります。

人は誰でも口の中にはカンジダ菌が存在しますが、乳児は免疫力が弱いので健康な児でも時にカンジダが増えることがあるのです。大人でもHIV感染(エイズ)やガンなどにかかって免疫不全状態になると、口腔内にカンジダが増殖することがあります。抗真菌剤のシロップで簡単に治療できます。

入戸野 博

 

 

新生児から乳児期の気になる症状について

うんちのはなし

7.便秘について

生下時には排便が1日に複数回あったものが、成長とともに自然に回数が減少します。特に離乳食を開始すると、便性が硬い傾向に変化します。母乳から人工栄養に変更した場合にも便が硬くなることがあり、1歳を過ぎるころになると便秘となるお子さんが増えます。便が硬くて太い場合には排便が痛いために我慢するようになり、肛門が切れて出血することもあります。

このような状態まで適切な処置をしないで放置すると、排便時の痛みのために排便を我慢して悪循環が形成され、難治性となってしまいます。ひどい場合には、直腸に便が下りても排便反射が障害されて母親の握りこぶし大くらいの便塊となり、1回の浣腸をしても排便を誘発できないこともありますし、肛門から便の先端が見えることもあります。クスリ、浣腸、食事療法などを実施し、1週間に3回程度の排便を目標に治療を継続します。排便ごとに浣腸が必要なまでに放置すると、治癒までに数か月間の時間がかかるので早目に受診することを勧めます。

治療薬には坐薬、ドライシロップ、液体、粉末など各種存在しており、お子さんに合ったものを投与して排便をコントロールします。治療開始時にはしばらくのあいだ、浣腸が必要なこともあります。

また先天的に腸の神経節の欠損が原因である先天性巨大結腸症という病気では、腸管の動きが障害されて新生児期から腹部がはれて嘔吐します。便秘と下痢を繰り返して年長児で発見されることもあります。

肛門から造影剤を注入して画像検査をし、直腸粘膜生検をして診断をします。手術が必要ですが、場合によっては人工肛門の増設が必要となることもあるし、長期間の浣腸や下剤による治療が必要です。便秘は苦痛を伴うので、患児が排便を快適と思えるまで根気強く治療を続ける必要があるでしょう。

入戸野 博

新生児から乳児期の気になる症状について

哺乳量不足の問題?

4.体重増加不良と気づいたら

生後3か月までは1日当たり30-35gの体重増加があり、3㎏で出生した新生児は3か月時にはおよそ6kgとなっています。一般に母乳栄養児の体重増加は、人工栄養児よりも若干少ないようです。

母乳の出が悪い場合には、乳児の哺乳量が低下してカロリー不足となります。乳児が母乳をいくら吸啜しても、母乳の出が足りない場合には乳児はあきらめて途中で寝てしまいます。このような場合に多いのは、母乳を30分間も与え続けていることです。
3か月頃までに来院して母乳の与え方や、時にミルクの追加方法を指導できた場合には赤ちゃんの体重が順調に増加し、体重曲線にそって増加することが多いようです。
しかし離乳食を始めるころになると赤ちゃん自身が母乳不足になれてしまい、ミルクを追加しても飲まないことが多いようです。このような場合にはミルクにこだわらずに離乳食を進めてみましょう。

健康で元気な乳児で母乳の出が良好な場合には左右両方の母乳の投与時間が10分程度のこともあります。乳児の体重増加不良が気になる場合には小児科医に相談してください。低出生体重児でない場合には、母子手帳の体重曲線の範囲内に入ることが大切です。

5.乳児の哺乳困難、生まれつきの前歯(先天歯)による舌の潰瘍(リガ-フェデ病)

先天性歯には出生時に歯の萌出が認められる出生歯と生後1か月以内に萌出が認められる新生歯により、哺乳のたびに舌がこすれて潰瘍ができて母乳の哺乳障害がおこることがあります。治療は小児歯科で乳歯の一部を削ります。

6.舌小帯短縮症

舌小帯が短くて舌がクローバー状に引きつれて見える舌小帯短縮症があります。このためにうまく哺乳できずに発育不良になったり(哺乳障害)、将来うまくしゃべれなくなくなったり(構音障害、言語障害)することを心配する母親がいます。

しかし、一般的には舌小帯短縮症で体重増加不良や言葉がうまくしゃべれなくなった小児報告例は稀です。昔は短い舌小帯を新生児期に切断していましたが、現在では
よほどのことがないと切断しません。

その昔、舌小帯による言語障害に関する見解が日本耳鼻科学会から日本小児科学会誌に報告され、このような報告は国内外で無いとの結論でした。多くの場合には心配はいりませんが、程度がひどい場合には処置が必要かもしれません。

入戸野 博

 

新生児から乳児期に気になる症状について

心配ない嘔吐と心配な嘔吐

3.母乳やミルクを吐く赤ちゃん中には重症な病気のことがあるので注意しましょう。

母乳やミルクを一度に多く与えてゲップを十分に出さずに寝かせると空気が胃に多量に残っていて、吐くことは良くあることで心配はいりません。嘔吐が頻回でなく、機嫌が良くて哺乳量も十分で体重の増加が順調であれば様子を見ていてもよいと思います。体重増加が標準であることを確認することがポイントです。また、哺乳後にゲップをさせたて寝かせた後にダラダラと流れるように吐く場合も心配がありません。この場合には体重増加は順調なことが多いようです。

しかし、生後2~3週ころから「ドバっと噴水状の嘔吐」が哺乳ごとに見られ、体重増加が少ない場合には精密検査が必要です。幽門狭窄症という病気が考えられます。胃の出口である幽門の筋肉が肥大したために胃の内容物が流れにくくなり、逆ぜん動で噴水状の頻回の嘔吐が起きます。放置していると脱水となり、乳児はやせていきます。超音波検査で診断でき、内科治療に反応しない場合には手術入院で治ります。

鑑別診断は胃食道逆流症(GERD)であり、胃から食道へミルクが逆流しやすくなっているので哺乳後にゲップを励行し、その後も上半身を挙上した姿勢をとらせてみます。それでも改善しない場合には精密検査が必要でしょう。

いずれにしても、頻回の嘔吐がある場合には順調な体重増加を確認するために小児科を受診しましょう。もし体重増加が不良な場合には、精密検査が必要です。

他方、ウイルス性下痢症にかかっている最中などに、生後4か月ころ以降の乳児が突然嘔吐を繰り返して両足をちぢめて火のついたように泣き叫んでいるときには、腸重積症が考えられますので緊急で小児科を受診してください。時間が経過すると便に鮮血が混じって排泄されます。最初は周期的に泣き叫びますが、次第にぐったりと元気がなくなってきます。24時間以内に腸重積を整復しないと、時間がたって腸が腐るために緊急手術となってしまいます。

乳児で発熱と嘔吐が見られ、下痢は無いが頭のてっぺんの大泉門が腫れている場合には頭の中に細菌が入り髄膜炎を起こしている疑いがあります。機嫌が悪くてけいれんを起こすこともあります。これらの症状がある場合には入院して脊髄液を採取して検査します。髄膜炎は細菌性とウイルス性があり、細菌性の場合には後遺症が残ることもあり生命予後が悪いです。脱水症があると大泉門がそれほど膨隆しないこともあるので注意が必要です。現在では生後2か月になるとHibワクチンと肺炎球菌ワクチンの接種が行われているために化膿性髄膜炎の感染が著しく減少しています。大事なお子様を髄膜炎から守るために必ず予防接種は受けてください。

入戸野 博

新生児から乳児期の気になる症状について

心配ない黄疸と心配な黄疸

1.赤ちゃんの尿と便の色に注意しましょう。黄色のしろ目は黄疸です

基本的に赤ちゃんの便の色は黄色です。しかし時として、何らかの病気の時には薄い黄色になったり、赤い点状や赤い塊(血液)が混ざったり、灰色や白色になったり変化することがあります。また乳児では緑色になったりすることもあります。

お母さんが妊娠中にある種の薬剤を服用していたり赤ちゃん自身が抗菌剤の投与を受けたりした場合に、母乳栄養児では赤ちゃんがビタミンK欠乏症になり、へそ、鼻、腸、頭の中に出血することがあります。外から見えるところに出血すれば気づきやすいのですが。

出血予防のために、すべての赤ちゃんには生後直後からビタミンKのシロップを複数回飲ませます。頭の中に出血するとけいれんを起こして危険な状態になりますし、後遺症を残すこともあります。

しかしビタミンKシロップを普通に飲んでいても、胆汁が十分に流れない病気(胆汁うっ滞症)だとビタミンKの吸収が障害されて出血することもあります。肝臓の病気のために胆汁の流れが悪くて頭の中に出血し、けいれんを起こして肝臓の病気(胆道閉鎖症)が見つかることもあるのです。

便の色が薄い黄色、灰色または白色の時は胆汁が十分に流れていないことが考えられます。腸に胆汁が流れないと赤ちゃんの尿は濃い黄色や茶色に変化しますし、しろ目が黄色くなります。

胆汁が流れにくい肝臓の病気のうち、胆汁が流れる管である胆管が開いている病気の代表は新生児肝炎や家族性進行性胆汁うっ滞症などがあります。他方、胆管がつぶれて胆汁が流れない病気には難病の胆道閉鎖症(BA)という病気があり、およそ1万人に一人くらいの頻度で発症します。BAは早期手術が必要ですが、手遅れの場合には肝硬変に進展して2歳までに肝不全で死亡しますので肝移植が必要になることがあります。

大部分のBAの発症は生後1か月頃までに胆管が急速に詰まる病気で、原因は不明です。生直後の便の色は黄色だったものが、ある日から薄い黄色になり、次第に白色となっていきます。このために赤ちゃんの便を注意してみていないと気づかないこともあります。大部分の症例は生後1か月頃には発症していることが考えられます。

しかしオムツに排泄された白い便に茶色の尿がかかると、外見は黄色に見えて異常に気付かないこともありますので注意が必要です。また皮膚やしろ目が黄色くなります(黄疸)ので、赤ちゃんのしろ目の色に注意しましょう。現在では母子手帳に便のカラー色が載っていますので、1か月健診の前には確認してください。尿がかかっていない便の色を確認するのがポイントです。

また、乳児の便が下痢気味で緑色になって心配して小児科を受診する場合があります。元気で食欲もあり、体重増加も順調であれば一過性の変化で心配ないと思います。おそらく便のペーハーが関係していて、ビリルビンという便中の黄色い色素が緑色のビリベルジンに変化したと思われます。

柑皮症(かんぴしょう)はミカンなどの柑橘類をたくさん食べると、カロチン色素により手のひらや足底などの皮膚が特に黄色くなりますがしろ目は黄色くならずに黄疸と区別ができます。また、胆汁が全く流れずに、白い便が排泄されているBAの患児であっても、お母さんがオレンジジュースを飲んで母乳を与えたら、ジュースに含まれているカロチン色素が母乳に移行して、これにより乳児が黄色の便を排泄した症例が報告されていますので注意が必要です。

母乳を飲んでいる乳児がすべて母乳性黄疸を発症するわけでもないことを知るべきです。茶色の尿や白っぽい便が一度でも見られたら、たとえ母乳を飲んでいても母乳性黄疸と短絡的に考えてはいけません。とにかく黄疸があって尿や便の色が気になる場合には、オムツを持参して実物を小児科医に見せることが重要です。

2.母乳性黄疸について

母乳中のある成分は、赤血球が壊れてできたビリルビンの抱合をするグルクロン酸抱合酵素を阻害する作用があります。このため、抱合されなかった非抱合型のビリルビンは胆汁中に流れにくくなり、血液中に逆流して黄疸となります。

母乳性黄疸では、生後1か月を経過しても黄疸が存在して長引きます(遷延性黄疸)。この場合には血液中に増加するビリルビンは非抱合型(間接型)であり、尿にも排泄されにくいために尿は黄色に着色しません。母乳性黄疸では抱合酵素がすべて阻害されるわけではないので、一部の抱合されたビリルビンが胆管に排泄されるために便の色は薄い黄色や白色にはなりません。

ですから母乳性黄疸の場合には、手術が必要な胆道閉鎖症(BA)のような濃い黄色の尿や白い便は認められないのです。

入戸野 博

小児科ブログ

日頃の子育てで心配なことや、ちょっとした疑問に対して役立つ情報を発信したいと思います。赤ちゃんの全身状態は良いのですが、対処しなければならない時期がある場合や、特に見逃してはいけない病気の症状など、様子を見ずにすぐに受診すべき症状について、またお母さんでもみつけることができる症状を中心に解説します。

第6回:医療崩壊、世界から見た日本の対応について

医療崩壊について

新型コロナウイルス感染症はその8割が軽症であるが、中等症や重症になると長期間の入院療養が必要になる。ダイヤモンド・プリンセス号の感染患者は、いまだに50名以上が入院している。特に重症患者は重点病棟で治療しているために、ベッドが長期間空かない事情がある。軽症患者は2週間程度で退院できるが、20%程度の中等症以上の患者の入院が長期化する傾向がある。このため、感染症指定病院や協力病院のベッドの満床状態が解消されず、特に首都圏では入院患者の収容が困難な状況となっている。

このような背景と、医療従事者を守るマスクや防護服類の深刻な不足問題があり、スタッフの精神的、肉体的な疲労が問題となっている。重点病棟はもともと熟練を要する人員配置がされており、ECMO(人工心肺)などの高度な医療機器を用いている特殊な医療環境であるので、迅速な設備の拡充やスタッフの増員も容易では無いことは理解できる。

流行が大きくなると、物理的に専門病院に収容できない患者さんは一般の協力病院に収容してもらう。しかし、多くの病院では他の入院患者さんへの院内感染を恐れたり、防護服関係の物資が圧倒的に不足しているため、いわゆるたらい回しが社会問題となっている。医療提供者側からみると、突然の感染の拡大(オーバーシュート)には対応ができない(ベッドに限りがあり、中等症以上の感染者の迅速な入院に対応ができない)ので、緊急事態宣言の出口戦略には慎重にならざるを得ないのだ。死亡率の高い(10%以上)スウエーデンでは、高齢者の治療はあまり積極的には行わないとの情報を得た。国により医療に対する考え方が違うようだ。

世界から見た日本の対応について

先進国でさえも強い国家権力により流行を阻止、縮小しようとしており、日本の対応が注目されている。日本は強い国家権力での流行阻止を行っておらず、先進諸国の中で患者数が少ない状況である。対策が奏功している理由は、優秀な専門家の存在と国民の衛生意識に対するレベルが高いことだそうだ。

入戸野 博

目次:

⇒ 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関して、これまでに分かったこと
⇒ 第1回:COVID-19における潜伏期と臨床症状について
⇒ 第2回:院内感染問題、オンライン診療、電話再診について
⇒ 第3回:治療薬とワクチン開発について
⇒ 第4回:予後、重症化症例について
⇒ 第5回:予防対策、再流行について
⇒ 第6回:医療崩壊、世界から見た日本の対応について

第5回:予防対策、再流行について

日常の予防について

不急不要な外出はなるべく避けることが原則である。手についたウイルスは流水で洗い流すだけでもウイルス量は70%程度減少する。石鹸を使用して30秒間手指を丁寧に洗うと、90%以上は減少するという。帰宅したときには、うがいをして、手を洗う習慣をつけるべきである。

また、ヒトは無意識に顔を触っているので、手に付着したウイルスを洗い流すことは重要である。マスクをしてウイルスの吸入を避けることは効果が乏しいが、咳をしている場合には飛沫を減少させる効果は証明されているので、ヒトが二人以上いる場合には、お互いにマスクを着用して2メートル位の距離を置くべきである。

再流行について

COVID-19の流行の抑制に成功した韓国では、外出制限が一部解除された数日後にはクラブに参加した40名が新たに感染したという。
北海道における再流行や3月の連休後に日本各地で感染者が急増したことと同じ現象である。ヒトが移動して3密状態となると、感染は拡大することはすでに判明している。再流行を完全に阻止するのは不可能のようであるが、本邦では国民一人一人の自覚と個人の権利を国家の強権で制限せずにこの国難を乗り越えられるかが試されている。

入戸野 博

目次:

⇒ 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関して、これまでに分かったこと
⇒ 第1回:COVID-19における潜伏期と臨床症状について
⇒ 第2回:院内感染問題、オンライン診療、電話再診について
⇒ 第3回:治療薬とワクチン開発について
⇒ 第4回:予後、重症化症例について
⇒ 第5回:予防対策、再流行について
⇒ 第6回:医療崩壊、世界から見た日本の対応について

第4回:予後、重症化症例について

予後について

あのダイヤモンド・プリンセス号におけるCOVID-19の総数721名のうち、死亡患者は13名であり、退院患者数は651名である。5月10日現在、いまだ57名の方が入院中である。それほどこの感染症は長期療養が必要なのだ。そして本邦の総感染者数は15,657名であり、死亡者633名(死亡率4.0%)、退院者8,276名を除くと、いまだに6,700人以上の患者さんが退院できないでいる。この疾患は一度感染すると、長期療養を余儀なくされることを覚悟すべきである。

さて、死亡者のうち90%以上は60歳以上の高齢者である。特に、高齢者は高血圧症、心疾患、気管支喘息、糖尿病、肺気腫症、腎疾患、肝疾患などの慢性疾患に罹患している割合が高いので、感染した場合には致命的になる。

小児の感染者は軽症が多いと報告されてきたが、ここにきて米国ニューヨークで川崎病に類似した症状が確認された子供が73人いたと報告された。このうち5歳児が死亡したという。ヨーロッパでも基礎疾患のない複数の未成年者の死亡が報告されている。感染総数が増大すれば、若年者の死亡例も増加すると考えられる。

重症化症例について

全身の臓器にウイルスが侵入して免疫がウイルスを打ち負かそうとして過剰に働き、暴走して炎症が広がり重篤化する可能性が指摘されている。免疫の働きを高めるインターロイキン6(IL-6)というタンパク質が体内で過剰に分泌されると、免疫細胞はウイルスに感染した細胞だけでなく正常な細胞も攻撃してしまう。死亡した患者はIL-6の血中濃度が著しく上昇していたとする報告もある。

他方、重症化に関わるメカニズムの一つとして注目されているのが、細胞の表面にある受容体たんぱく質、ACE2(アンジオテンシン変換酵素2)だ。ACE2は、SARSウイルスと同様に、新型コロナウイルスが細胞への侵入の足場として利用していることが分かってきた。ただし糖尿病や高血圧のヒトが感染しやすいという報告は無い。感染者に急性腎不全を起こすことも報告されている。腎臓の細胞にACE2が多いことも重症化の一因となっている可能性がある。ACE2が喫煙で活性化するため、喫煙者が感染すると重症化する危険性があるという。

入戸野 博

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⇒ 第1回:COVID-19における潜伏期と臨床症状について
⇒ 第2回:院内感染問題、オンライン診療、電話再診について
⇒ 第3回:治療薬とワクチン開発について
⇒ 第4回:予後、重症化症例について
⇒ 第5回:予防対策、再流行について
⇒ 第6回:医療崩壊、世界から見た日本の対応について

第3回:治療薬とワクチン開発について

治療薬について

米国に続いて本邦でも、エボラ出血熱の治療薬であるレムデシビルという点滴注射薬が承認された。ウイルスの増殖を阻止する作用があり、重症患者に用いる薬剤である一方、肝臓や腎障害などの副作用があるために専門家による判断を要する。

他方、経口薬(錠剤)としては日本の製薬会社が新型インフルエンザ薬として開発したアビガンは現在治験が進行中であるが、妊婦には使用できない。アビガンも近い将来承認されて保険適応される予定である。

この他、関節リュウマチ薬や膵炎治療薬など、世界中では様々な薬剤の治験が実施されている。今後は多くの薬剤の効果が報告され、最も有効な治療薬の組み合わせや病状によるきめ細かな使用基準が報告されると考えられる。

ワクチンについて

COVID-19の流行は拡大と縮小を繰り返しながら数年間も続くことが予想されている。このため、うまくウイルスと共存することが求められているのだ。人口の70%程度の感染が起きれば感染の流行は終焉を迎えると考えられている。当初英国は流行を放置する方針をとっていたためにパンデミックになってしまい、首相まで感染して入院した。しかし途中で外出制限をするように変更された。

このウイルス感染症は特に高齢者が重症になる場合が多々あるので、どうしても感染予防対策を実施すべきである。流行を放置するわけにはいかないのだ。また、早急なワクチン開発が期待されている。世界各国の製薬会社が主導権争いでワクチン開発をしている。事実、WHOに登録されているワクチン開発の数が108種類もあるという。もちろん本邦の製薬会社も開発中であるし、経鼻式ワクチンも開発している。

ところで現実にワクチンが人々に接種されるのは、今後1-2年を要するのかもしれない。安全性の確認には時間がかかるのだ。しかし英国のオックスフォード大学で開発されているワクチンは、MERSの時の技術を応用しており、今年の9月に完成予定であるという。しかも、大切なその技術を世界中の製薬会社に提供するといっている。

また一般的に、インフルエンザワクチンの効果はおよそ50%程度であるが、果
たしてSARS-CoV-2のワクチンの場合にはどの程度の感染予防効果であろうか。いずれにしても精度の高い診断キットの開発、安全で効果的な薬剤の開発そして副作用の少ないワクチンの開発が今年中に実現すれば、一般診療所を含むすべての医療機関において現状よりも迅速に対処できるようになるし、来年のオリンピックの開催も現実のものとなる。

入戸野 博

目次:

⇒ 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関して、これまでに分かったこと
⇒ 第1回:COVID-19における潜伏期と臨床症状について
⇒ 第2回:院内感染問題、オンライン診療、電話再診について
⇒ 第3回:治療薬とワクチン開発について
⇒ 第4回:予後、重症化症例について
⇒ 第5回:予防対策、再流行について
⇒ 第6回:医療崩壊、世界から見た日本の対応について