新生児から乳児期に気になる症状について

心配ない嘔吐と心配な嘔吐

3.母乳やミルクを吐く赤ちゃん中には重症な病気のことがあるので注意しましょう。

母乳やミルクを一度に多く与えてゲップを十分に出さずに寝かせると空気が胃に多量に残っていて、吐くことは良くあることで心配はいりません。嘔吐が頻回でなく、機嫌が良くて哺乳量も十分で体重の増加が順調であれば様子を見ていてもよいと思います。体重増加が標準であることを確認することがポイントです。また、哺乳後にゲップをさせたて寝かせた後にダラダラと流れるように吐く場合も心配がありません。この場合には体重増加は順調なことが多いようです。

しかし、生後2~3週ころから「ドバっと噴水状の嘔吐」が哺乳ごとに見られ、体重増加が少ない場合には精密検査が必要です。幽門狭窄症という病気が考えられます。胃の出口である幽門の筋肉が肥大したために胃の内容物が流れにくくなり、逆ぜん動で噴水状の頻回の嘔吐が起きます。放置していると脱水となり、乳児はやせていきます。超音波検査で診断でき、内科治療に反応しない場合には手術入院で治ります。

鑑別診断は胃食道逆流症(GERD)であり、胃から食道へミルクが逆流しやすくなっているので哺乳後にゲップを励行し、その後も上半身を挙上した姿勢をとらせてみます。それでも改善しない場合には精密検査が必要でしょう。

いずれにしても、頻回の嘔吐がある場合には順調な体重増加を確認するために小児科を受診しましょう。もし体重増加が不良な場合には、精密検査が必要です。

他方、ウイルス性下痢症にかかっている最中などに、生後4か月ころ以降の乳児が突然嘔吐を繰り返して両足をちぢめて火のついたように泣き叫んでいるときには、腸重積症が考えられますので緊急で小児科を受診してください。時間が経過すると便に鮮血が混じって排泄されます。最初は周期的に泣き叫びますが、次第にぐったりと元気がなくなってきます。24時間以内に腸重積を整復しないと、時間がたって腸が腐るために緊急手術となってしまいます。

乳児で発熱と嘔吐が見られ、下痢は無いが頭のてっぺんの大泉門が腫れている場合には頭の中に細菌が入り髄膜炎を起こしている疑いがあります。機嫌が悪くてけいれんを起こすこともあります。これらの症状がある場合には入院して脊髄液を採取して検査します。髄膜炎は細菌性とウイルス性があり、細菌性の場合には後遺症が残ることもあり生命予後が悪いです。脱水症があると大泉門がそれほど膨隆しないこともあるので注意が必要です。現在では生後2か月になるとHibワクチンと肺炎球菌ワクチンの接種が行われているために化膿性髄膜炎の感染が著しく減少しています。大事なお子様を髄膜炎から守るために必ず予防接種は受けてください。

入戸野 博

新生児から乳児期の気になる症状について

心配ない黄疸と心配な黄疸

1.赤ちゃんの尿と便の色に注意しましょう。黄色のしろ目は黄疸です

基本的に赤ちゃんの便の色は黄色です。しかし時として、何らかの病気の時には薄い黄色になったり、赤い点状や赤い塊(血液)が混ざったり、灰色や白色になったり変化することがあります。また乳児では緑色になったりすることもあります。

お母さんが妊娠中にある種の薬剤を服用していたり赤ちゃん自身が抗菌剤の投与を受けたりした場合に、母乳栄養児では赤ちゃんがビタミンK欠乏症になり、へそ、鼻、腸、頭の中に出血することがあります。外から見えるところに出血すれば気づきやすいのですが。

出血予防のために、すべての赤ちゃんには生後直後からビタミンKのシロップを複数回飲ませます。頭の中に出血するとけいれんを起こして危険な状態になりますし、後遺症を残すこともあります。

しかしビタミンKシロップを普通に飲んでいても、胆汁が十分に流れない病気(胆汁うっ滞症)だとビタミンKの吸収が障害されて出血することもあります。肝臓の病気のために胆汁の流れが悪くて頭の中に出血し、けいれんを起こして肝臓の病気(胆道閉鎖症)が見つかることもあるのです。

便の色が薄い黄色、灰色または白色の時は胆汁が十分に流れていないことが考えられます。腸に胆汁が流れないと赤ちゃんの尿は濃い黄色や茶色に変化しますし、しろ目が黄色くなります。

胆汁が流れにくい肝臓の病気のうち、胆汁が流れる管である胆管が開いている病気の代表は新生児肝炎や家族性進行性胆汁うっ滞症などがあります。他方、胆管がつぶれて胆汁が流れない病気には難病の胆道閉鎖症(BA)という病気があり、およそ1万人に一人くらいの頻度で発症します。BAは早期手術が必要ですが、手遅れの場合には肝硬変に進展して2歳までに肝不全で死亡しますので肝移植が必要になることがあります。

大部分のBAの発症は生後1か月頃までに胆管が急速に詰まる病気で、原因は不明です。生直後の便の色は黄色だったものが、ある日から薄い黄色になり、次第に白色となっていきます。このために赤ちゃんの便を注意してみていないと気づかないこともあります。大部分の症例は生後1か月頃には発症していることが考えられます。

しかしオムツに排泄された白い便に茶色の尿がかかると、外見は黄色に見えて異常に気付かないこともありますので注意が必要です。また皮膚やしろ目が黄色くなります(黄疸)ので、赤ちゃんのしろ目の色に注意しましょう。現在では母子手帳に便のカラー色が載っていますので、1か月健診の前には確認してください。尿がかかっていない便の色を確認するのがポイントです。

また、乳児の便が下痢気味で緑色になって心配して小児科を受診する場合があります。元気で食欲もあり、体重増加も順調であれば一過性の変化で心配ないと思います。おそらく便のペーハーが関係していて、ビリルビンという便中の黄色い色素が緑色のビリベルジンに変化したと思われます。

柑皮症(かんぴしょう)はミカンなどの柑橘類をたくさん食べると、カロチン色素により手のひらや足底などの皮膚が特に黄色くなりますがしろ目は黄色くならずに黄疸と区別ができます。また、胆汁が全く流れずに、白い便が排泄されているBAの患児であっても、お母さんがオレンジジュースを飲んで母乳を与えたら、ジュースに含まれているカロチン色素が母乳に移行して、これにより乳児が黄色の便を排泄した症例が報告されていますので注意が必要です。

母乳を飲んでいる乳児がすべて母乳性黄疸を発症するわけでもないことを知るべきです。茶色の尿や白っぽい便が一度でも見られたら、たとえ母乳を飲んでいても母乳性黄疸と短絡的に考えてはいけません。とにかく黄疸があって尿や便の色が気になる場合には、オムツを持参して実物を小児科医に見せることが重要です。

2.母乳性黄疸について

母乳中のある成分は、赤血球が壊れてできたビリルビンの抱合をするグルクロン酸抱合酵素を阻害する作用があります。このため、抱合されなかった非抱合型のビリルビンは胆汁中に流れにくくなり、血液中に逆流して黄疸となります。

母乳性黄疸では、生後1か月を経過しても黄疸が存在して長引きます(遷延性黄疸)。この場合には血液中に増加するビリルビンは非抱合型(間接型)であり、尿にも排泄されにくいために尿は黄色に着色しません。母乳性黄疸では抱合酵素がすべて阻害されるわけではないので、一部の抱合されたビリルビンが胆管に排泄されるために便の色は薄い黄色や白色にはなりません。

ですから母乳性黄疸の場合には、手術が必要な胆道閉鎖症(BA)のような濃い黄色の尿や白い便は認められないのです。

入戸野 博

小児科ブログ

日頃の子育てで心配なことや、ちょっとした疑問に対して役立つ情報を発信したいと思います。赤ちゃんの全身状態は良いのですが、対処しなければならない時期がある場合や、特に見逃してはいけない病気の症状など、様子を見ずにすぐに受診すべき症状について、またお母さんでもみつけることができる症状を中心に解説します。

第6回:医療崩壊、世界から見た日本の対応について

医療崩壊について

新型コロナウイルス感染症はその8割が軽症であるが、中等症や重症になると長期間の入院療養が必要になる。ダイヤモンド・プリンセス号の感染患者は、いまだに50名以上が入院している。特に重症患者は重点病棟で治療しているために、ベッドが長期間空かない事情がある。軽症患者は2週間程度で退院できるが、20%程度の中等症以上の患者の入院が長期化する傾向がある。このため、感染症指定病院や協力病院のベッドの満床状態が解消されず、特に首都圏では入院患者の収容が困難な状況となっている。

このような背景と、医療従事者を守るマスクや防護服類の深刻な不足問題があり、スタッフの精神的、肉体的な疲労が問題となっている。重点病棟はもともと熟練を要する人員配置がされており、ECMO(人工心肺)などの高度な医療機器を用いている特殊な医療環境であるので、迅速な設備の拡充やスタッフの増員も容易では無いことは理解できる。

流行が大きくなると、物理的に専門病院に収容できない患者さんは一般の協力病院に収容してもらう。しかし、多くの病院では他の入院患者さんへの院内感染を恐れたり、防護服関係の物資が圧倒的に不足しているため、いわゆるたらい回しが社会問題となっている。医療提供者側からみると、突然の感染の拡大(オーバーシュート)には対応ができない(ベッドに限りがあり、中等症以上の感染者の迅速な入院に対応ができない)ので、緊急事態宣言の出口戦略には慎重にならざるを得ないのだ。死亡率の高い(10%以上)スウエーデンでは、高齢者の治療はあまり積極的には行わないとの情報を得た。国により医療に対する考え方が違うようだ。

世界から見た日本の対応について

先進国でさえも強い国家権力により流行を阻止、縮小しようとしており、日本の対応が注目されている。日本は強い国家権力での流行阻止を行っておらず、先進諸国の中で患者数が少ない状況である。対策が奏功している理由は、優秀な専門家の存在と国民の衛生意識に対するレベルが高いことだそうだ。

入戸野 博

目次:

⇒ 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関して、これまでに分かったこと
⇒ 第1回:COVID-19における潜伏期と臨床症状について
⇒ 第2回:院内感染問題、オンライン診療、電話再診について
⇒ 第3回:治療薬とワクチン開発について
⇒ 第4回:予後、重症化症例について
⇒ 第5回:予防対策、再流行について
⇒ 第6回:医療崩壊、世界から見た日本の対応について

第5回:予防対策、再流行について

日常の予防について

不急不要な外出はなるべく避けることが原則である。手についたウイルスは流水で洗い流すだけでもウイルス量は70%程度減少する。石鹸を使用して30秒間手指を丁寧に洗うと、90%以上は減少するという。帰宅したときには、うがいをして、手を洗う習慣をつけるべきである。

また、ヒトは無意識に顔を触っているので、手に付着したウイルスを洗い流すことは重要である。マスクをしてウイルスの吸入を避けることは効果が乏しいが、咳をしている場合には飛沫を減少させる効果は証明されているので、ヒトが二人以上いる場合には、お互いにマスクを着用して2メートル位の距離を置くべきである。

再流行について

COVID-19の流行の抑制に成功した韓国では、外出制限が一部解除された数日後にはクラブに参加した40名が新たに感染したという。
北海道における再流行や3月の連休後に日本各地で感染者が急増したことと同じ現象である。ヒトが移動して3密状態となると、感染は拡大することはすでに判明している。再流行を完全に阻止するのは不可能のようであるが、本邦では国民一人一人の自覚と個人の権利を国家の強権で制限せずにこの国難を乗り越えられるかが試されている。

入戸野 博

目次:

⇒ 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関して、これまでに分かったこと
⇒ 第1回:COVID-19における潜伏期と臨床症状について
⇒ 第2回:院内感染問題、オンライン診療、電話再診について
⇒ 第3回:治療薬とワクチン開発について
⇒ 第4回:予後、重症化症例について
⇒ 第5回:予防対策、再流行について
⇒ 第6回:医療崩壊、世界から見た日本の対応について

第4回:予後、重症化症例について

予後について

あのダイヤモンド・プリンセス号におけるCOVID-19の総数721名のうち、死亡患者は13名であり、退院患者数は651名である。5月10日現在、いまだ57名の方が入院中である。それほどこの感染症は長期療養が必要なのだ。そして本邦の総感染者数は15,657名であり、死亡者633名(死亡率4.0%)、退院者8,276名を除くと、いまだに6,700人以上の患者さんが退院できないでいる。この疾患は一度感染すると、長期療養を余儀なくされることを覚悟すべきである。

さて、死亡者のうち90%以上は60歳以上の高齢者である。特に、高齢者は高血圧症、心疾患、気管支喘息、糖尿病、肺気腫症、腎疾患、肝疾患などの慢性疾患に罹患している割合が高いので、感染した場合には致命的になる。

小児の感染者は軽症が多いと報告されてきたが、ここにきて米国ニューヨークで川崎病に類似した症状が確認された子供が73人いたと報告された。このうち5歳児が死亡したという。ヨーロッパでも基礎疾患のない複数の未成年者の死亡が報告されている。感染総数が増大すれば、若年者の死亡例も増加すると考えられる。

重症化症例について

全身の臓器にウイルスが侵入して免疫がウイルスを打ち負かそうとして過剰に働き、暴走して炎症が広がり重篤化する可能性が指摘されている。免疫の働きを高めるインターロイキン6(IL-6)というタンパク質が体内で過剰に分泌されると、免疫細胞はウイルスに感染した細胞だけでなく正常な細胞も攻撃してしまう。死亡した患者はIL-6の血中濃度が著しく上昇していたとする報告もある。

他方、重症化に関わるメカニズムの一つとして注目されているのが、細胞の表面にある受容体たんぱく質、ACE2(アンジオテンシン変換酵素2)だ。ACE2は、SARSウイルスと同様に、新型コロナウイルスが細胞への侵入の足場として利用していることが分かってきた。ただし糖尿病や高血圧のヒトが感染しやすいという報告は無い。感染者に急性腎不全を起こすことも報告されている。腎臓の細胞にACE2が多いことも重症化の一因となっている可能性がある。ACE2が喫煙で活性化するため、喫煙者が感染すると重症化する危険性があるという。

入戸野 博

目次:

⇒ 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関して、これまでに分かったこと
⇒ 第1回:COVID-19における潜伏期と臨床症状について
⇒ 第2回:院内感染問題、オンライン診療、電話再診について
⇒ 第3回:治療薬とワクチン開発について
⇒ 第4回:予後、重症化症例について
⇒ 第5回:予防対策、再流行について
⇒ 第6回:医療崩壊、世界から見た日本の対応について

第3回:治療薬とワクチン開発について

治療薬について

米国に続いて本邦でも、エボラ出血熱の治療薬であるレムデシビルという点滴注射薬が承認された。ウイルスの増殖を阻止する作用があり、重症患者に用いる薬剤である一方、肝臓や腎障害などの副作用があるために専門家による判断を要する。

他方、経口薬(錠剤)としては日本の製薬会社が新型インフルエンザ薬として開発したアビガンは現在治験が進行中であるが、妊婦には使用できない。アビガンも近い将来承認されて保険適応される予定である。

この他、関節リュウマチ薬や膵炎治療薬など、世界中では様々な薬剤の治験が実施されている。今後は多くの薬剤の効果が報告され、最も有効な治療薬の組み合わせや病状によるきめ細かな使用基準が報告されると考えられる。

ワクチンについて

COVID-19の流行は拡大と縮小を繰り返しながら数年間も続くことが予想されている。このため、うまくウイルスと共存することが求められているのだ。人口の70%程度の感染が起きれば感染の流行は終焉を迎えると考えられている。当初英国は流行を放置する方針をとっていたためにパンデミックになってしまい、首相まで感染して入院した。しかし途中で外出制限をするように変更された。

このウイルス感染症は特に高齢者が重症になる場合が多々あるので、どうしても感染予防対策を実施すべきである。流行を放置するわけにはいかないのだ。また、早急なワクチン開発が期待されている。世界各国の製薬会社が主導権争いでワクチン開発をしている。事実、WHOに登録されているワクチン開発の数が108種類もあるという。もちろん本邦の製薬会社も開発中であるし、経鼻式ワクチンも開発している。

ところで現実にワクチンが人々に接種されるのは、今後1-2年を要するのかもしれない。安全性の確認には時間がかかるのだ。しかし英国のオックスフォード大学で開発されているワクチンは、MERSの時の技術を応用しており、今年の9月に完成予定であるという。しかも、大切なその技術を世界中の製薬会社に提供するといっている。

また一般的に、インフルエンザワクチンの効果はおよそ50%程度であるが、果
たしてSARS-CoV-2のワクチンの場合にはどの程度の感染予防効果であろうか。いずれにしても精度の高い診断キットの開発、安全で効果的な薬剤の開発そして副作用の少ないワクチンの開発が今年中に実現すれば、一般診療所を含むすべての医療機関において現状よりも迅速に対処できるようになるし、来年のオリンピックの開催も現実のものとなる。

入戸野 博

目次:

⇒ 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関して、これまでに分かったこと
⇒ 第1回:COVID-19における潜伏期と臨床症状について
⇒ 第2回:院内感染問題、オンライン診療、電話再診について
⇒ 第3回:治療薬とワクチン開発について
⇒ 第4回:予後、重症化症例について
⇒ 第5回:予防対策、再流行について
⇒ 第6回:医療崩壊、世界から見た日本の対応について

第2回:院内感染問題、オンライン診療、電話再診について

院内感染について

大学病院に入院前の患者でCOVID-19の症状が無いにもかかわらず、67人中4人(6%)が陽性になったという報告がある。
また感染症指定医療機関や感染協力医療機関などの大きな病院では医師を含めて、看護師、検査職員、事務員そして一般の入院患者などの院内感染も起きている。

5月中旬でも8割の医療機関で、マスクをはじめとした防護服などが不足しているのが現状である。

ヒトが多く集まる大病院はともかくとして、予約制のある診療所の待合室で感染する危険性は少ないと考えられるが、どうしても院内感染が心配な場合にはオンライン診療または電話再診を利用して主治医に相談するとよい。

オンライン診療、電話再診について

オンライン診療は直接医療施設へ行かなくても診察を受けることができ、感染の機会は無いので高齢者や免疫不全の患者さんにとっては有利である。しかも初診であってもCOVID-19の流行中のみ期限限定で可能となった。

しかし、血圧、脈拍、胸部聴診、咽頭所見、血中酸素飽和度などの基本的な情報も確認できず、誤診の危険性も指摘されているので安易な利用は注意が必要である。初診は対面診療が基本である。オンライン診療は、安定している高齢者の慢性疾患の指導などには適していると考えられる。

他方、かかりつけ医への電話再診は以前から常態化していた。担当医は普段の患者さんの状態を把握しているので、患者さんが症状さえ正確に説明できれば診療はしやすい。電話再診のポイントは、かかりつけ医への相談の前に発熱、せきなどの症状の出現時期と期間などをまとめておくことである。

診断について

先ずはPCR(polymerase chain reaction)検査について述べる。
本邦のPCR検査数が先進国と比較して著しく少ないことが連日声高に報道されてきた。PCR検査は鼻腔の奥の粘膜をこすり取り、その中に存在しているウイルスの遺伝子(SARS-CoV-2の場合はRNA)を専用機器で時間をかけて増やしてウイルスが存在している(感染している:陽性)か、居ない(未感染:陰性)かの判定をしているのである。専用機器と高価な試薬を用いて分析操作には技術を要し、結果が判明するまでにおよそ2日間を要する。

そして、このPCR検査は微量のウイルスのRNAを検出できるので精度は高いが、感度は実際に様々なPCRを取り扱っている研究者に聞くと、 およそ70%程度(陽性100人中70人は陽性と判定され、残りの30人は陰性と判定されて見落とされる)であるという。他方、特異度は90数パーセントと高い(陰性100人中90数名は陰性と判定されるが、数%は陽性と判定される)。

これは何を意味しているのかというと、陰性と判定された場合でも30%は陽性の可能性が残っているということであり、逆に陰性と判定された人の中の数%は感染者の可能性もあるということだ。一度陰性になった患者さんが再び陽性になったりすることは免疫学上考えにくく、検査そのものに原因があると考えられる。

やはり、大事なのは「症状である」ということだ。多くのヒトは陰性と告げられると、これですべて安心と思うが、PCR検査とはこのようなものだということを理解しておくことが必要である。

ではなぜ、日本のPCR検査が韓国のように検査数が伸びないかという問題がある。我が国のPCR検査は、国立感染症研究所と都道府県の地方衛生研究所(地衛研)などの公的機関が感染症のPCR検査を担ってきた歴史がある。特に地衛研は感染症法で規定された結核やはしかなどの検査を業務とし、新しい病原体について多量に検査することは想定されておらず、体制が不十分であった。

すなわち人材、設備、防護服などの調達の遅れのために現在でもPCR検査の依頼にこたえられない状況のようだ。このため、民間会社や医師会がようやく活動を開始している。こんなところに我が国の医療体制の不備が露呈している。想定外の事態に対する危機管理の問題と考えられる。近い将来、強毒性のトリインフルエンザウイルスのパンデミックは必ず起こる。そのような事態を想定して対策を講じておく必要もある。

また、5月13日中にはインフルエンザのように鼻粘膜液を採取し、判定が10~15分で可能な抗原検出の簡易検査キットが承認され、保険適応になった。
このキットは、ウイルスの表面に存在しているタンパク質を検出する仕組みである。

もし、このキットが一般診療所で使用可能になれば、COVID-19が心配の患者さんには朗報であるし、多くの医師にとっても有益な検査となる。しかし、このキットの精度(検出限界ウイルス量:タンパク質量)は未知数であるので、陰性と判定されても100%は安心できない。やはり検査よりも「症状が重要である」ことは間違いがない。陰性であっても症状が続く場合には、PCR検査を実施すべきであることは言うまでもない。

他方、スイスのロシュという会社から発売されている抗体検査キットは、感度が100%ということであるが、陽性になるまでの日数がおよそ2週間と時間を要するため、ある地域のSARS-CoV-2感染率の実態把握などに役立つと思われる。また過去にCOVID-19のような軽い症状を経験したヒトは、検査をしてみる価値はある。

入戸野 博

目次:

⇒ 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関して、これまでに分かったこと
⇒ 第1回:COVID-19における潜伏期と臨床症状について
⇒ 第2回:院内感染問題、オンライン診療、電話再診について
⇒ 第3回:治療薬とワクチン開発について
⇒ 第4回:予後、重症化症例について
⇒ 第5回:予防対策、再流行について
⇒ 第6回:医療崩壊、世界から見た日本の対応について

第1回:COVID-19における潜伏期と臨床症状について

潜伏期について

インフルエンザの場合にはおよそ5日以内であるが、COVID-19の場合には14日と長い場合もあり、平均5日程度である。

臨床症状について

軽い風邪症状(せき、鼻水、咽頭痛、頭痛)、発熱(37.5度以上)の持続、そして味覚や嗅覚の障害、食欲不振、下痢、結膜炎などの比較的軽い症状から、全身の筋肉痛、全身倦怠感(インフルエンザ様)、激しいせき込み、さらに呼吸困難までと幅広い症状が存在し、患者によりそれぞれの症状が異なっていることが報告されている。
重症度区分は、軽症が80%, 酸素を必要とするのが中等症、人工呼吸器やECMO(extra corporeal membrane oxygenation: 人工心肺装置)で治療が必要な症例を重症とする。
また、無症状の感染者の存在も報告されており、このような保菌者の存在が流行阻止対策の障害の一つになっている。

最初、風邪症状のように軽症であった患者がほんの数日後に突然呼吸困難に陥り(急変)、重点病棟に収容された事例が報告されており、この疾患の対応を複雑にしている。

軽症者が突然に重症化する原因が判明してきた。それは、インフルエンザウイルスの場合には、ウイルスが主に咽頭で増殖するが、SARS-CoV-2は咽頭を通り抜け、直接肺で増殖する場合があるという。ウイルスの表面に肺の組織に付着しやすい装置があるためだ。感染初期には肺でのウイルス量は少ないために症状が軽度であるが(silent pneumonia:静かな肺炎)、時間とともに肺で多量のウイルスが増殖して肺炎が拡大すると突然呼吸困難になり、すぐに対処しないと致命的になる。呼吸困難は、重症肺炎の症状でもある。

COVID-19患者の初診時に肺のCT検査を実施すると、すでに軽度の肺炎の所見が確認されることがあるという。このため入院患者を受け入れている医療機関では、一般入院患者や医療従事者の院内感染防止の観点から神経質になっており、呼吸困難や発熱患者の入院拒否が社会問題となっている。

入戸野 博

目次:

⇒ 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関して、これまでに分かったこと
⇒ 第1回:COVID-19における潜伏期と臨床症状について
⇒ 第2回:院内感染問題、オンライン診療、電話再診について
⇒ 第3回:治療薬とワクチン開発について
⇒ 第4回:予後、重症化症例について
⇒ 第5回:予防対策、再流行について
⇒ 第6回:医療崩壊、世界から見た日本の対応について

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関して、これまでに分かったこと

令和1年12月31日に、中国武漢での未知のウイルスの流行について中国からWHOに対して報告された。今年の1月に入って、病原体が新型のコロナウイルスと判明した。その後、ヒトからヒトへの感染も証明された。今年の1月には本邦でも流行が始まり、原因ウイルスがヒトに風邪症状を起こすコロナウイルスの6番目の新型コロナウイルスであると判明し、SARS-CoV-2と命名された。3月11日にWHOはパンデミックを表明。ご存知のように本邦では4月7日には7都道府県に緊急事態宣言が出され、4月16日には全国に拡大された。1か月後の5月6日には更に5月31日まで延長された。新型コロナウイルス感染症をCOVID-19と言う。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関して、これまで分かってきたことを、6回に分けて報告したいと思う。

第1回:COVID-19における潜伏期と臨床症状について
第2回:院内感染問題、オンライン診療、電話再診について
第3回:治療薬とワクチン開発について
第4回:予後、重症化症例について
第5回:予防対策、再流行について
第6回:医療崩壊、世界から見た日本の対応について