第4回:予後、重症化症例について

予後について

あのダイヤモンド・プリンセス号におけるCOVID-19の総数721名のうち、死亡患者は13名であり、退院患者数は651名である。5月10日現在、いまだ57名の方が入院中である。それほどこの感染症は長期療養が必要なのだ。そして本邦の総感染者数は15,657名であり、死亡者633名(死亡率4.0%)、退院者8,276名を除くと、いまだに6,700人以上の患者さんが退院できないでいる。この疾患は一度感染すると、長期療養を余儀なくされることを覚悟すべきである。

さて、死亡者のうち90%以上は60歳以上の高齢者である。特に、高齢者は高血圧症、心疾患、気管支喘息、糖尿病、肺気腫症、腎疾患、肝疾患などの慢性疾患に罹患している割合が高いので、感染した場合には致命的になる。

小児の感染者は軽症が多いと報告されてきたが、ここにきて米国ニューヨークで川崎病に類似した症状が確認された子供が73人いたと報告された。このうち5歳児が死亡したという。ヨーロッパでも基礎疾患のない複数の未成年者の死亡が報告されている。感染総数が増大すれば、若年者の死亡例も増加すると考えられる。

重症化症例について

全身の臓器にウイルスが侵入して免疫がウイルスを打ち負かそうとして過剰に働き、暴走して炎症が広がり重篤化する可能性が指摘されている。免疫の働きを高めるインターロイキン6(IL-6)というタンパク質が体内で過剰に分泌されると、免疫細胞はウイルスに感染した細胞だけでなく正常な細胞も攻撃してしまう。死亡した患者はIL-6の血中濃度が著しく上昇していたとする報告もある。

他方、重症化に関わるメカニズムの一つとして注目されているのが、細胞の表面にある受容体たんぱく質、ACE2(アンジオテンシン変換酵素2)だ。ACE2は、SARSウイルスと同様に、新型コロナウイルスが細胞への侵入の足場として利用していることが分かってきた。ただし糖尿病や高血圧のヒトが感染しやすいという報告は無い。感染者に急性腎不全を起こすことも報告されている。腎臓の細胞にACE2が多いことも重症化の一因となっている可能性がある。ACE2が喫煙で活性化するため、喫煙者が感染すると重症化する危険性があるという。

入戸野 博

目次:

⇒ 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関して、これまでに分かったこと
⇒ 第1回:COVID-19における潜伏期と臨床症状について
⇒ 第2回:院内感染問題、オンライン診療、電話再診について
⇒ 第3回:治療薬とワクチン開発について
⇒ 第4回:予後、重症化症例について
⇒ 第5回:予防対策、再流行について
⇒ 第6回:医療崩壊、世界から見た日本の対応について