第1回:COVID-19における潜伏期と臨床症状について

潜伏期について

インフルエンザの場合にはおよそ5日以内であるが、COVID-19の場合には14日と長い場合もあり、平均5日程度である。

臨床症状について

軽い風邪症状(せき、鼻水、咽頭痛、頭痛)、発熱(37.5度以上)の持続、そして味覚や嗅覚の障害、食欲不振、下痢、結膜炎などの比較的軽い症状から、全身の筋肉痛、全身倦怠感(インフルエンザ様)、激しいせき込み、さらに呼吸困難までと幅広い症状が存在し、患者によりそれぞれの症状が異なっていることが報告されている。
重症度区分は、軽症が80%, 酸素を必要とするのが中等症、人工呼吸器やECMO(extra corporeal membrane oxygenation: 人工心肺装置)で治療が必要な症例を重症とする。
また、無症状の感染者の存在も報告されており、このような保菌者の存在が流行阻止対策の障害の一つになっている。

最初、風邪症状のように軽症であった患者がほんの数日後に突然呼吸困難に陥り(急変)、重点病棟に収容された事例が報告されており、この疾患の対応を複雑にしている。

軽症者が突然に重症化する原因が判明してきた。それは、インフルエンザウイルスの場合には、ウイルスが主に咽頭で増殖するが、SARS-CoV-2は咽頭を通り抜け、直接肺で増殖する場合があるという。ウイルスの表面に肺の組織に付着しやすい装置があるためだ。感染初期には肺でのウイルス量は少ないために症状が軽度であるが(silent pneumonia:静かな肺炎)、時間とともに肺で多量のウイルスが増殖して肺炎が拡大すると突然呼吸困難になり、すぐに対処しないと致命的になる。呼吸困難は、重症肺炎の症状でもある。

COVID-19患者の初診時に肺のCT検査を実施すると、すでに軽度の肺炎の所見が確認されることがあるという。このため入院患者を受け入れている医療機関では、一般入院患者や医療従事者の院内感染防止の観点から神経質になっており、呼吸困難や発熱患者の入院拒否が社会問題となっている。

入戸野 博

目次:

⇒ 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関して、これまでに分かったこと
⇒ 第1回:COVID-19における潜伏期と臨床症状について
⇒ 第2回:院内感染問題、オンライン診療、電話再診について
⇒ 第3回:治療薬とワクチン開発について
⇒ 第4回:予後、重症化症例について
⇒ 第5回:予防対策、再流行について
⇒ 第6回:医療崩壊、世界から見た日本の対応について