第10回 新型コロナウイルスと血管炎と多臓器不全について

新型コロナウイルスが体内に入ると、全身に存在しているが特に肺に存在しているACE2という受容体にウイルスが付着して感染が成立して肺で増殖する。初期ではサイレント肺炎といわれ、症状は軽微である。しかし感染が成立すると、からだの免疫が働いて炎症を抑えようとしてIL-6というタンパクを生成してウイルス感染に対抗する。感染後5日ころに発症するが、多くのヒトは15日ころには軽症で治癒する。しかし、一部のヒトは肺炎が重症化し、気管挿管やECMO(人工呼吸器)などによる治療が必要になり長期入院となる。

重症化したヒトのからだの中では原因が不明であるが免疫を抑えようとするIL-6が過剰に産生されるサイトカイン ストームが起き、正常な血管の細胞も攻撃される。その結果全身に血管炎が生じて血小板が凝集し、全身の臓器の血栓形成に進展して脳梗塞、心筋梗塞、多臓器不全になるという。全身の血管炎を起こすと、小児の川崎病のような状態になり、小児における新型コロナウイルス感染症では似た症状が出現することが報告されている。しかし本邦ではこのような症例の報告はないようだ。重症化する患者の背景には様々な生活習慣病を有することが判明している。

ではなぜ生活習慣病を有するヒトは重症化するリスクがあるのだろうか。そもそも高血圧症、高脂血症、糖尿病などの生活習慣病は、多かれ少なかれ血管の障害を伴っていると考えられる。この状態に新型コロナウイルスが感染すると、血管炎が増悪しやすくなることは容易に想像できる。しかしすべての生活習慣病のヒトが重症化するわけではなく、サイトカイン ストームを起こしやすいヒトは人種差のように遺伝子そのものに何か秘密があるのかもしれない。

入戸野 博