小児期、思春期

5.吃音症(きつおんしょう)について

一般的には「どもり」といい、3歳と6歳ころに発症のピークがあると言います。筆者も小学校入学前頃に、どもりのひどい親戚のヒトの真似をしているうちに「どもり」が発症したことがあります。初めの言葉がなかなか出ないために会話に困りました。

一般的な治療は、患児にはゆっくり話させるように指導し、親はゆっくりと話を聞くようにすることが大事であると言われています。昔から幼児期には言葉の数が増える時期なので発症するとも言われていますが。どもりの改善の体験談としては、歌を歌っているときは「どもらない」ことに気づき、自信がつきました。

家族や友達と話すときはゆっくりと話し始め、発語に詰まりそうなときは同じ意味のほかの単語に置き換えてしゃべるとどもりにくくなることを体験し、次第に改善していきました。また、中学生になると英語の朗読でもどもりませんでした。

最近では「どもり」の家族性発症や染色体の異常などが報告されています。青年期には、薬物投与による治療も報告されています。しかし小児期の「どもり」の大部分は、言語発達途中における一過性のもののようです。好きな歌を歌わせて、患児に自信をつけさせてみるのはどうでしょうか。

小児期、思春期

4 熱中症について

最近では、毎年夏になると熱中症が話題となっています。

熱中症は高温環境下における生体の適応障害の総称であり、軽症、中等症、重症に分類されています。

日常の小児医療において、マスコミで報道されている患児の大部分は軽症例です。軽症は「熱痙攣」とも呼ばれ、体温上昇はないか軽度であり、もちろん臓器障害はありません。暑さによる末梢血管の拡張がおこり、一過性の血圧低下に伴う「めまい」や「立ちくらみ」などの症状、筋肉の有痛性痙攣などです。

中等症は「熱疲労」とも呼ばれ、大量発汗による脱水と電解質喪失による末梢性循環不全で、40℃以下の体温上昇と頭痛、疲労感、筋力低下、悪心、嘔吐、ショック症状などの多彩な症状を示します。

重症は「熱射病」と言われ、体温調節機構の破綻により体温上昇は40℃を超えます。全身臓器が障害され、中枢性神経症状や血液凝固障害などをきたし、致死率が高いために集中治療室での治療が必要です。

熱中症は予防が可能な疾患です。炎天下での活動の場合には必ず運動の前に十分な睡眠と水分をとります。半袖半ズボンで帽子をかぶって20~30分おきに休憩をとり、その際に水分補給をするようにします。子供たちの運動活動の指導者が、このようなポイントを心がけていれば熱中症の予防は可能でしょう。

屋外での運動習慣、十分な睡眠時間の確保ができる環境、規則正しい生活リズム、適切な栄養摂取などが満たされていることが大事だと思います。

体育館などのように直接には強い日光に当たらなくとも、風通しの悪い場所では発汗が抑制されて熱中症になることがありますので注意が必要です。

日常的に屋外での遊びを全くせずに室内でゲームばかりしていたり、睡眠時間が足りない場合や極端な偏食による貧血などがあると、運動会の練習時などに熱中症症状が出やすいと考えられます。同じ環境で運動している集団の中で体力が低下している個体から、症状が出やすいのだと思います。熱中症予防の基本は、規則正しい生活が大事だと思います。

小児期、思春期

3.夜尿症

生命に直接かかわる疾患でないために、保護者や患児には「恥ずかしい」「隠したい」「恥」などの気持ちがあります。夜尿症とは、「5歳以降で、1か月に1回以上の夜尿が3か月以上続くもの」であり、さらに「1週間に4日以上の夜尿を頻回、3日以下の夜尿を非頻回」との定義があります。実際には小学校に入学し、集団のお泊り行事の時期が近づくと来院することが多いようです。頻度は就学直前の5~6歳では約20%、就学時は10%です。10歳以上では5%前後、中学生では1~3%です。まれに成人まで継続することもあります。

夜尿症の原因には、夜間多尿、排尿筋過活動、覚醒域値の上昇、発達の遅れ、遺伝的素因などが報告されています。夜尿は体質的な要因が大きいと思われるので、大多数の患児は加齢とともに改善をします。自然治癒の時期は女児で10~11歳、男児は12~14歳ころと報告されています。キャンプなどの課外授業時に心配する保護者が多いのも事実です。

治療は、泌尿器科的疾患、尿崩症、睡眠時無呼吸症候群などの基礎疾患の除外を行い、水分摂取制限などの生活習慣の説明と排尿日誌の記入の指導が必要です。また、中等症以上では薬物療法(漢方薬を含む)や夜尿アラームなどの使用を選択します。

これらの治療に抵抗性の場合には、超音波検査による解剖学的尿路異常の検索、膀胱容量、膀胱壁厚、残尿などの検査を行います。まれですが夜尿症のほかに、5歳以上で器質的な疾患がないにもかかわらず、トイレ以外で排尿してしまうことを遺尿症といいます。尿崩症、尿路奇形、二分脊椎による膀胱直腸障害などの精密検査が必要です。また、便の場合には遺糞症と言い、同じく精査が必要です。

小児期、思春期

2.チック障害について

突発的に目をぱちぱちさせたり、片方の肩を上げたり、首を曲げたりする動作を繰り返す状態が4週間以上持続しているものをチックと言います。これとは別に、音声チックがあり、突然の発声により周囲の人が驚く場合もあります。

チック症状を見ると親は気になって子供に注意をすることが多いようですが、これは逆効果となり、叱られた直後には逆にチック症状が増加しますので気をつけてください。

チックは子供の15%も経験していますが、多くは一過性であり、ほとんどの子供は1年以内に症状が改善します。重症化することは稀です。

親は自分の育て方が悪いと悩みますが、最近のチックの病因はドパミンD2受容体拮抗薬が有効なことや、ほかの神経伝達物質に作用する薬剤も効果があることから、ドパミンをはじめとする神経伝達物質やそれらのバランスの変化がチックに関与し、チックの障害部位は大脳基底核と前頭葉および辺縁系が関与していることが想定されているようです。育て方の問題ではないのです。

周囲の無理解のために不登校になる場合もあり、このような場合には担任への説明も必要になることもあります。教室でチック症状が頻発するようなら、保健室などへの隔離も考えます。このような場合には小児神経専門医による薬物療法も考慮すべきでしょう。また、溶血性連鎖球菌(溶連菌)感染症(しょう紅熱)の後からチック様の不随意運動がまれに出現することもありますので、注意が必要です。原因は確立していませんが、自己免疫疾患が考えられています。

小児期、思春期

1.朝、なかなか起きられない子供たち

起立性調節障害(きりつせい ちょうせつしょうがい)について

この病気は、小学生高学年から中高生の女児に多い病気です。重症な子供は、校庭や体育館で校長先生の朝礼でのお話の途中で顔色が青ざめて、立っている状態から気持ちが悪くなり(たちくらみ)、ひどいと転倒(失神)してしまいます。

このような症状の病気は、起立性調節障害が疑われます。主な症状は①立ちくらみあるいはめまいを起こしやすい、②立っていると気持ちが悪くなる、③(熱い)風呂が苦手、④少し動いただけで動悸や息切れがする、⑤朝の起床困難(体がだるくて、辛くて起きられない状態)と午前中調子(気分)が悪い。このほかには、⑥頭痛、⑦腹痛(へそのあたり)、⑧顔色が青白い、⑨疲れやすい、⑩バスなどの乗り物に酔いやすい、⑪食欲低下などです。

多くの子供たちは、早朝や午前中は苦手であるが、昼食を食べる頃から体調が回復して元気となり、夜は問題なく過ごせる(いわゆる夜型人間)などの特徴があります。

原因は、起立時の循環動態に対する生理的調節機構の異常で生じます。要するに自律神経機能異常によって、脳や全身の血流調節不全が起きます。すなわち、立っていると血圧が低下して上と下の血圧の幅(脈圧)が減少し、また心拍数が増加(心臓がドキドキする)して頭がふわーっとした状態(脳貧血)の症状が出ます。時に、不登校と間違えられたりすることもあります。

鑑別する病気は、脳腫瘍、甲状腺機能異常、不登校、てんかん、鉄欠乏性貧血、低血圧症などです。

診断は外来で20分くらいを要しますが、簡単な「起立試験」を行います。この試験は、起立しながら血圧と脈拍を5分おきに測定します。他の病気との鑑別のために、採血も行います。頭痛が激しい場合にはCT検査や脳波検査もすることがあります。

治療は、軽症の場合は起立時にあたまを下げてゆっくりと立ち上がり、長時間の起立は避けます。規則正しい生活リズムを目指します。

中等症以上では薬物療法を行います。重症な場合には、心理療法も必要になることがあります。

新生児から乳幼児の気になる症状について

おへその話

19.でべそ(臍ヘルニア)

臍は生後5-9日目には脱落します。その後に肉芽ができることもあり、その場合には硝酸銀棒で処置します。臍の脱落が遅れる場合には、免疫不全が疑われることもありますし、稀におへそから尿が漏れることもあります。

赤ちゃんが泣いたときに、へその部分が出っ張って出てくることがあります。臍ヘルニアのことで、いわゆる「でべそ」です。生後へその緒が脱落するときに臍動静脈の閉鎖吸収が起こり横筋筋膜で閉鎖されますが、この過程が障害されると臍ヘルニアになります。生後数日から数週で出現し、2~3か月時にピークとなります。自然閉鎖傾向が強く、2歳までに90%が自然閉鎖します。最近スポンジを用いた圧迫法が注目されており、およそ2か月程度で閉鎖すると言われています。直径が500円玉以上のものは閉鎖しにくいと言われています。2歳を過ぎてもヘルニアを認める場合には手術となります。

 泌尿器関係の異常

 20.真性包茎と外陰膣炎について

陰茎から黄色の膿汁が出て、陰茎が赤く腫れて亀頭包皮炎になることがあります。また、放置しておくと包皮をむいて元に戻せなくなり、いわゆる包皮嵌頓が生じることもあります。包皮炎は抗生剤の入った軟膏を使用。嵌頓は整復が必要です。包茎に対しては、ステロイド軟膏を4~8週間塗布します。

思春期前の帯下のほとんどは非特異的外陰膣炎であり、大腸菌による炎症で抗生剤の軟膏塗布で治療します。排尿排便時の清拭法を指導することが大切です。

 21.陰嚢の大きさに左右差がある?

片方の睾丸が大きい場合、睾丸にみずがたまっている精巣水瘤と睾丸につながっている管にみずがたまっている精索水瘤があります。無痛性で透光性があり、超音波検査などで診断できます。精巣、精索水瘤は乳児で90%以上、幼児で60%以上、学童期でも40%以上に自然治癒が認められます。

22.陰嚢内に睾丸が触れない?

そもそも睾丸は腹腔で発生した後に陰嚢へ下降するが、途中で停止する場合もあります。腹腔内に存在するものや足の付け根(鼠径部)付近に存在するものがある。腹腔内のものはガン化の危険性があり、生後6か月から1歳半までに精巣固定術を行うのが望ましい。

アレルギーについて

 23.食物アレルギーと恐いナフィラキシーショック

食物アレルギーは、特定の食物を摂取すると口の周りや顔、体に発疹、蕁麻疹などが出現して皮膚がかゆくなります。ひどいときには嘔吐やせきが出現し、喘息発作になって呼吸困難になることもあるので注意深い観察が必要です。

原因食物をとり続けるとますます症状が強く出る傾向があり、モモなどの果物の場合には口の中がかゆくなる口腔アレルギー症候群が出現することもあります。このため、ある食物をとると経験的に体の具合が悪くなるのでそのような食べ物は食べなくなり、昔は好き嫌いと言ってかたづけられていたのかもしれません。

卵白などの強いアレルギーの場合には、のどが詰まって呼吸ができなくなり、ショック状態になることがあります。これをアナフィラキシーショックといい命の危険があります。このため、食物アレルギーが強くてアナフィラキシーショックになる危険性がある患児は、アドレナリン自己注射薬(エピペン)を常に携帯すべきです。効果の持続が10~15分程度であるため、医療機関が遠い場合や海外旅行時には2本処方してもらうと良いでしょう。

最近では、どれだけ食べられるかという食物負荷試験が行われています。鶏卵、牛乳、小麦は自然寛解する傾向があり。大部分の食物アレルギーは小学生になるころには改善します。しかしソバ、ピーナッ、甲殻類、魚類などは大人になってもアレルギーが残ることが多いのです。除去食を継続する場合には栄養素の不足に注意すべきです。緊急時の内服のために小児用ドライシロップの抗アレルギー剤の処方をあらかじめ用意しておきましょう。

24.早朝、夜間のせき込み発作、気道過敏症とは、気管支喘息

日中と夜間の温度差が大きい季節、特に晩秋で空気が冷たく変化する季節に熱もないのに早朝や夜間のみにせき込み、日中はケロッとしている乳児や小児がいます。外来で呼吸音を聴診しても正常呼吸音であることが多い。このような患児はおそらく気道過敏症であり、普通の咳止めは効果が乏しくて気管支拡張剤の内服が効果的です。

他方、雨が降る前日や台風の低気圧が近付くと呼吸困難で眠れないほどのせき込みがあり、ゼイゼイ、ヒューヒューと聞こえる患児は気管支喘息の疑いがあります。気管支拡張剤の吸入を実施すると、胸部のラ音も軽減します。難治性の場合には、自宅での継続的な吸入器による長期的な治療を要します。夜間苦しくて眠れないときは、救急外来を早めに受診しましょう。

救急外来へ

 25.ピーナッツを食べていた子の突然のせき込み、気管支異物が疑われます。

寝転んで豆菓子を食べている最中に突然にせき込んだ場合には、気管支異物が疑われます。ピーナッツの場合が多く、右利きの場合には左側臥位のために左側の気管支に異物を誤飲している場合が考えられます。時に呼吸困難、チアノーゼを認め、喘息発作との鑑別が必要です。胸部X線写真やCT検査を行い、診断されたら麻酔して気管支鏡による摘出が必要になります。5歳以下の小児には豆菓子は控えることが重要です。

26.ボタン電池の誤飲

近年ボタン電池が身の回りに普及しており、光っているので幼弱小児は興味を持ち、手ごろな大きさなので口に入れて誤飲する事故があります。

ボタン電池の誤飲で放電によりアルカリが産生された状態では粘膜障害から食道穿孔や縦隔炎をきたすこともあります。このためすみやかに内視鏡により摘出する必要があり、小児内視鏡専門医のいる医療施設を受診します。

ボタン電池は子供の手が届かないところに一時的に保管し、処分することが重要です。

27.5歳未満の子供に銀杏を食べさせてはいけない

銀杏にはビタミンB6に似た4’-o-methylpyridoxineという化学物質が含まれており、これが原因で吐き気、嘔吐、下痢などの消化器症状や手足の震えやふらつき、けいれんなどの神経症状が出ることがあります。

栄養状態が悪い場合には中毒になりやすく、子供がなりやすいので5歳以下の子供には銀杏は与えない方が良いです。また、年齢以上の個数を食べないように注意すべきです。

銀杏を食べた後に消化器症状や神経症状などが出現したら受診すべきです。この場合、銀杏をおよそ何個食べたかを医師に知らせることは重要です。治療はビタミンB6を投与します。

 飽食時代の栄養失調症

28. くる病

くる病は、カルシウムとリンの石灰化障害であり骨強度が低下する。近年赤ちゃんの栄養状態が良好になったので母子手帳から赤ちゃんの日光浴の推奨が削除されました。しかし、母乳栄養、食物アレルギーによる食事内容の変化などの影響により都会でもくる病が増加してきているのです。まさに飽食時代の栄養失調症です。

太陽の光を浴びると、体内のビタミンDの元が活性ビタミンDに変化するので、日光浴は赤ちゃんにとってとても大切なのです。

症状は低身長とO脚が主で、歩行開始の遅れ、歩行異常、乳児期に筋力低下、けいれんなどを認めます。大きく分けてビタミンD作用の欠乏による低カルシウム血症性くる病とリン排泄増加による低リン血症性くる病があります。

O脚や歩行開始時期の遅れなどがある場合には、精査が必要です。赤ちゃん用の日焼け止めクリームの使用には注意も必要です。美容に気を取られていると、赤ちゃんの骨が曲がってしまいます。

 

ママ、おててを強く引っ張らないで

29.肘内障(ちゅうないしょう)

聞きなれない病名だと思うでしょう。この病気のきっかけは、急に幼児の手を引っ張ったりして「ひじの関節」が脱臼するために起きます。

肘内障の症状は痛みのために泣いたり、外れた側の手を急に動かさなくなったり、物をつかめなくなったり、痛い側の手を上げられなくなります。夜間に起こして泣きながら寝てしまうと、翌日には脱臼関節がむくんで整復しにくくなるので、なるべく早く小児科か整形外科を受診しましょう。

整復は簡単で、慣れた小児科医は保護者の説明を聞いてその場で瞬間的に整復できます。

整復が成功すると、来院時よりうって変わって患児は脱臼した側の手でおもちゃを握ったり自分で手を挙上できるようになります。またひじを90度以上屈曲できるようになります。この病気は目の前で整復がうまくいったことを確認できます。

幼児のひじの関節は脱臼しやすいために、きつい洋服を脱がせたりしたときにも肘内障を起こします。何度も繰り返す子もいますので、日常生活で注意してください。5歳以上では発生しにくくなります。

 

おなかの病気

30.腹痛

子供の腹痛を起こす病気はたくさん存在しますが、軽い便秘症などで発熱がない場合には一刻を争って治療を必要とする病気は少ないようです。子供の訴えの中でも腹痛はせき、鼻水に次いで上位3番目くらいに多いのです。腹痛だけで他の症状、たとえば発熱、嘔吐、下痢、血便などを伴わなければ、救急外来に飛び込む必要は少ないと思われます。

 急性虫垂炎は、特に2歳以下の場合には診断が非常に困難です。多くの場合は腹膜炎を合併していますが、それでも腹部の触診所見がはっきりしないのです。ある時は触診で痛いと言ったり、ある時は痛くないと言うためです。このため、全身状態を総合的に判断するしかないのです。年長児以上になると、「片足ケンケン」をさせると右下腹部の痛みを訴えることが多く、診断に役立ちます。いずれにしても白血球数やCRPなどの炎症反応などの血液検査も参考にします。

 

神経系の病気について

31.ひきつけ(ケイレン)

熱性けいれんは38度以上の発熱時に突然ひきつけを起こします。単純型と複合型があります。以下の項目に一つも該当しなければ単純型であり、一つでもあれば複合型です。(参考:発症前の発達や神経学的異常がある、発作の持続時間が15~20分以上である、両親、同胞にてんかんがいる、生後6か月未満および6歳以上の発症)。

最近のガイドラインでは、予防のために抗ケイレン薬のダイアップ坐薬の使用は昔ほど推奨されないようです。患児の70%は生涯を通じて1回しか発作を起こしません。

ケイレンとチアノーゼを伴うてんかん発作でも、小児では初回発作のあと10年でも半数しか再発しないので、治療は2回目以降の発作で開始します。

 

仰向けに寝ている乳児が両側の上肢を同時に天井に向けて挙上し、頭を前屈するようなひきつけを何度も続けて起こす(シリーズ形成)場合には、点頭てんかんを疑います。脳波検査で特有な発作がみられるので診断は容易ですが、難治性のことが多いようです。

食事中の動作などがほんの一瞬、10秒前後止まる発作もあり、よく観察しないと気が付かない欠神てんかんや起立時に突然崩れるように倒れる難治性のミオクロニー失立発作てんかんもあります。いずれも専門医の受診が必要です。

32.大泉門について

乳児の頭には、頭の骨の部分に穴が開いているところがあります。指の腹でそっと頭をなででみると、骨がない部分が分かります。この部分を大泉門といい、赤ちゃんにとって重要な情報を発信しています。

大泉門は普段は平らですが、頭の中に細菌やウイルスが侵入して髄膜炎を起こした場合には脳圧が上昇するために大泉門は外に張り出し、手で触れると膨隆していることがわかります。突発性発疹の時にも膨隆することがあります。

他方、頻回の嘔吐と下痢で体の水分が失われて脱水になると、大泉門はへこんでしまいます。このように大泉門は赤ちゃんの健康状態を示す大事なバロメーターです。脱水が矯正されると、へこんでいた大泉門は元にもどります。

大泉門はおよそ1歳6か月頃には頭蓋骨が成長して閉鎖します。あまり早く閉鎖して小頭症になったり、閉鎖が遅れて頭囲が拡大しているときには水頭症を疑います。

 

33.歩行が遅れる児(関節が柔らかい児?)

検診などで、1歳になっても「つかまり立ち」や「つたい歩き」をしない児がいます。発達が少しだけ遅れている(運動発達遅延)ことが疑われますが、ほかに明らかな異常がなく、このような患児の中に関節が過度に柔らかい乳児がいます。

しかし、このようなお子さんの大部分は遅くとも1歳6か月頃までには歩行可能となっています。その背景には、恐らく関節が少しだけ柔らかくて関節の発達が少々遅れ、しっかりと体を支えられないためと思われます。その後の発達は正常に経過しているようです。1歳6か月になっても独り歩きできない場合には、精密検査が必要でしょう。

他方、先天性の筋緊張が低下する疾患の中に、筋力低下を伴う疾患と、筋力低下を伴わない中枢神経疾患の疾患があり、これらは重症なもの(フロッピーインファント)で、新生児期から乳児期に症状が出現します。専門医の継続的な診察が必要です。

 

34.赤ちゃんの瞳が白い?(網膜芽細胞腫)

初発症状は白色瞳孔、斜視が多く、これらの所見に気づいたら至急眼科を受診すべきです。網膜芽細胞腫は網膜に生じる悪性腫瘍ですが、両目に生じる場合もあるようです。95%は眼球内に限局した状態で発見されるために生命予後は良好であり、5年生存率は95%以上です。

35.いつも涙が流れている赤ちゃん(鼻涙管閉塞)

生後1か月以内に生じる「いつも涙が流れている状態」は鼻涙管閉塞で、新生児の6-20%にみられる。生後3か月までには約70%、12か月までに約90%が自然治癒するようです。症状が涙だけの場合は様子を見てよいが、目やにが出る場合には眼科を受診しましょう。

36.ふとモモのしわの左右差がある。

おむつ替えの時に片側の下肢の開きが悪いこと(股関節の開排制限)や太もものしわに左右差があることに気づいたら、先天性股関節脱臼が疑われます。まず小児科を受診して相談します。股関節脱臼が疑われたら小児整形外科を紹介してもらいましょう。家族性も報告されています。整復された後も、定期的な経過観察が重要です。

37.しろ目が青色っぽい? 骨形成不全症の疑い

赤ちゃんのしろ目がすこし青色に見える場合には、骨形成不全症が疑われます。この他に、歯牙形成不全、難聴、新生児期の呼吸不全、多汗などの症状が合併することがあります。この病気では、少しの外力で四肢骨が容易に骨折します(病的骨折)。保育園で保育中に骨折したお子さんを経験しました。虐待が疑われましたが、結局この疾患でした。骨の変形が起きないように、小児整形外科にて治療、経過観察が必要です。