第12回 COVID19により変わるこれからのわが国の医療体制

5月31日時点で世界では616万人以上のCOVID19の大流行により、死者も37万人近くに迫っている。現在はブラジルで感染爆発が起きている。

本邦でも病院、診療所を問わず、誰もがこれまでに経験しなかった医療体制の変化を受け入れざるを得ない状況となっている。COVID19患者を入院治療している病院での医療崩壊寸前の状態は病院の物理的な入院施設の制限のみならず、そこで働く医師をはじめとした医療従事者の肉体的精神的ストレスは計り知れない。

さらに感染の恐怖心から特に今年の4月から一般患者も受診を控えており、患者数の激減により病院のみならず診療所の経営をも極度に圧迫している。このままの状況が続けば、経営破綻して閉院する医療機関も出ることが予想される。とくに借金をして最近開院した診療所の経営状態は想像に難くない。

これだけ多くの人々が3密をさけてマスク、手洗い、うがいを毎日励行しており、かぜなどの急性感染症が姿を消している。このため、急性疾患を主に診療している耳鼻科や小児科診療所の患者数が激減しており、経営を圧迫している。違う意味でかかりつけ医の医療崩壊が始まっているのだ。受診を控える傾向は乳幼児への予防注射を延期する事態になっている。緊急事態宣言解除後に若い人を中心に交流の機会が増すと、必ず様々な感染症の頻度も増える。ワクチン接種は、重症疾患を予防するためのものであるために適切な時期に実施することが必要である。

院内感染の恐怖のために受診抑制する傾向は今後も完全には無くならないと考える。COVID19をきっかけに、いわゆる遠隔医療システム(オンライン診療)の導入が促進されるだろう。大病院を比喩する言葉の代表である「3時間待ちの3分診療」など、軽症患者の病院受診は論外であるが、安定している難病や慢性疾患患者にとって遠隔診療システムは選択の余地のある医療システムだ。遠隔診療は、2次感染の防止には効果的であるため、利用の方法により診療所でも活用可能である。しかし診察時の客観的な血圧、脈拍、体温、酸素飽和度などのバイタルサインに関するデーターがリアルタイムで得られにくいという欠点があり、将来これを補う機器の開発がされれば在宅医療分野にも大きく広がっていくと思われる。新たな医療システムとして発展していくと予想される。

現状ではCOVID19流行中の特例で初診も利用可能となっているが、流行が下火になった時の対応に問題が残る。オンライン診療の利点は、遠距離からの定期的な通院の改善、高齢者が関節痛のために通院困難な場合、通院(受診)そのものに関するプライバシー問題、専門的な知識が必要な疾患の治療、精神疾患のカウンセラーなどへの適用が拡大されて行くと思われる。仕事が多忙のために受診ができず、単に、時間の節約などという個人の都合による要件では保険診療は許されないのだろう。COVID19により、本邦の医療体制は大きく変化せざるを得ない。オンライン診療は、患者側と医療者側が適切に使用することにより今後大きく発展していくものと考える。

入戸野 博

第11回 ポストコロナではなくウイズコロナでしょう

最近のわが国におけるCOVID19の動向をみると、北九州市で23日間も患者発生数がゼロであったのが5月24日から5日連続で計22人陽性と確認され、第2波が心配されている状況である。東京では5月25日に緊急事態宣言が解除されたが、相変わらず患者数は二けたを持続しており、6月2日には1日の陽性者が35人となり、警戒警報である「東京アラート」が出された。

このような状況から推測すると、以前から指摘されていたようにCOVID19を完全に制圧することは無理で、「ポストコロナ」の日本経済とかポストコロナの「医療体制」というマスコミの記事は現実的ではないと考えられる。やはり「ウイズコロナ」という表現の方が近未来に対しては正確だと思う。それは、緊急事態宣言が解除されたとしても、人々の心の中にはコロナ感染の恐怖が残っている。そして世界中の人々が治療薬剤とワクチンの早期の開発を待っており、これを契機に生活がコロナ以前に戻ることを待望している。しかし現実には治療薬のアビガンの承認も遅れている。ワクチンも世界中で専門機関が競争で開発しているが、RNAウイルスに対するワクチンはDNAウイルスに対するそれよりも困難であるらしい。RNAウイルス感染症であるC型肝炎ワクチンもなかなか開発されていないように。

コロナウイルスは流行が大きくなると遺伝子変異もそれに伴って頻度を増すようだ。毒性の増悪も心配である。また、現在のコロナウイルスの遺伝子変異は中国型、欧州型、米国型の大きく3種類に分類されているが、それぞれの型を用いたワクチンがお互いの株に対して効果を示すのかということも心配だ。それぞれのコロナウイルスの共通部分に対するワクチンなのか、それともインフルエンザワクチンのようにそれぞれの型に対するワクチンを混ぜて製剤にするのかもしれない。いずれにしても最も大事なのは安全性とその持続効果である。1日も早く開発されることを期待している。

入戸野 博

第10回 新型コロナウイルスと血管炎と多臓器不全について

新型コロナウイルスが体内に入ると、全身に存在しているが特に肺に存在しているACE2という受容体にウイルスが付着して感染が成立して肺で増殖する。初期ではサイレント肺炎といわれ、症状は軽微である。しかし感染が成立すると、からだの免疫が働いて炎症を抑えようとしてIL-6というタンパクを生成してウイルス感染に対抗する。感染後5日ころに発症するが、多くのヒトは15日ころには軽症で治癒する。しかし、一部のヒトは肺炎が重症化し、気管挿管やECMO(人工呼吸器)などによる治療が必要になり長期入院となる。

重症化したヒトのからだの中では原因が不明であるが免疫を抑えようとするIL-6が過剰に産生されるサイトカイン ストームが起き、正常な血管の細胞も攻撃される。その結果全身に血管炎が生じて血小板が凝集し、全身の臓器の血栓形成に進展して脳梗塞、心筋梗塞、多臓器不全になるという。全身の血管炎を起こすと、小児の川崎病のような状態になり、小児における新型コロナウイルス感染症では似た症状が出現することが報告されている。しかし本邦ではこのような症例の報告はないようだ。重症化する患者の背景には様々な生活習慣病を有することが判明している。

ではなぜ生活習慣病を有するヒトは重症化するリスクがあるのだろうか。そもそも高血圧症、高脂血症、糖尿病などの生活習慣病は、多かれ少なかれ血管の障害を伴っていると考えられる。この状態に新型コロナウイルスが感染すると、血管炎が増悪しやすくなることは容易に想像できる。しかしすべての生活習慣病のヒトが重症化するわけではなく、サイトカイン ストームを起こしやすいヒトは人種差のように遺伝子そのものに何か秘密があるのかもしれない。

入戸野 博