新生児から乳児期の気になる症状について

赤ちゃんの様々な感染症に関して

8.持続する発熱

一般に小児では解熱剤を使用しなくても5日以上の発熱を伴う疾患は少ないのです。もし5日以上の発熱が続いていたら、先ず病気の重症度判定のためのスクリーニングとして白血球と炎症反応の強さを見るCRPという検査をします。採血は指先を針で刺して、少量の血液で検査可能です。この両者の数字と患児の状態で入院治療の必要の有無を判断します。

突発性発疹は、生後6か月からの赤ちゃんが最初に経験する高熱を伴う疾患です。熱の割には機嫌が良くてせきや鼻水もなくて食欲や機嫌も良いのですが、時に熱性けいれんを起こすこともあります。3-5日の発熱が急激に解熱し、主に体幹に散在性の発疹が解熱してからほぼ同時に出現するのが特徴です。発疹は手足には少なく、解熱後の方が機嫌は悪くて下痢になる場合もあります。

最初は39度以上の高熱で始まり、口の周りに水疱が舌には口内炎ができて歯肉が真っ赤になる単純ヘルペスウイルスの初感染による歯肉口内炎という疾患があります。最初から症状がすべてそろっていればすぐに診断がつきますが、発熱当日では風邪の疑いと診断されてしまいます。口の周りの水疱や赤い歯肉のような特徴的な症状が出たら、もう一度受診すると正確な診断がされてヘルペスウイルスの治療薬の投与が受けられます。

発熱の治療をしているにもかかわらず、38.5度以上の高熱が持続する病気があります。その代表は川崎病で、強い炎症所見(CRPの高値)が存在します。原因は不明であり、発熱、発疹、頸部リンパ節腫脹、眼球結膜の充血、咽頭発赤、イチゴ舌、BCG接種後の皮膚の発赤などの特徴的な症状を呈するので、小児科医を受診すれば即座に診断がつくでしょう。

治療は、免疫グロブリンの大量点滴療法とアスピリン療法を実施するために入院治療が必要です。心臓の冠動脈の動脈瘤の合併が無ければ予後は良好です。時に冠動脈瘤の閉塞による心筋梗塞で突然死することもあります。冠動脈病変が無い場合でも、退院後5年間の定期的な管理が必要です。

せきや咽頭痛などの気道感染の所見がない場合には、尿検査が必要です。乳児の場合には尿を採取するための尿パックがありますので、これで採取します。咳などの風邪症状が無い高熱の場合に鑑別すべき疾患として腎盂腎炎があります。膀胱炎だけでは発熱せず、生まれつきの尿管膀胱逆流現象(VUR)のために膀胱炎の原因菌である大腸菌が尿管に逆流して腎盂に感染して腎盂腎炎を起こします。

治療後の尿路感染症に対する長期予防のための薬剤投与でVURの程度が改善することがあります。高熱および尿に膀胱炎所見が認められたら抗生剤治療を開始(外来または入院)し、治癒してから膀胱造影をして尿管への逆流の程度を評価することも必要です。

扁桃に白色の偽膜が認められるEBウイルスの初感染である伝染性単核球症も高熱が1週間持続するが、慢性に移行する場合もある。またアデノウイルスによる咽頭発赤と結膜の充血を伴う咽頭結膜熱(プール熱)は4-6日間程度の発熱が続き、このほかに出血性結膜炎、流行性結膜炎、出血性膀胱炎なども起こします。アデノウイルスは簡易検出キットで診断できます。

9.犬やオットセイが鳴く様な変なせき(犬吠様咳嗽)とかすれ声(仮性クループ)

突然に犬やオットセイが吠えたりするような変なせきが出現し、声がれの症状を伴う急性喉頭炎(仮性クループ)があります。特徴的なせきなので異変に気付きやすい。喉の奥の声帯部分(喉頭)のウイルスや細菌感染が原因です。喉頭部の腫れを軽減するアドレナリンとステロイドの吸入を行います。内服はステロイドのシロップ剤を投与します。明け方にせき込み発作と呼吸困難が増強するので、眠れない場合にはその時点で救急外来を受診すべきです。急性喉頭炎は繰り返し起こすお子さんがいます。

特徴的なせき、声がれと高熱を伴い、呼吸困難が進行性の場合には急性喉頭蓋炎が考えら、重症化します。酸素投与、気道確保、抗生剤投与のために厳重な入院管理が必要です。

10.RSウイルス感染症

RSウイルスは冬季に風邪を起こすウイルスの一つです。しかし4か月未満の乳児では、発熱、鼻汁、せき、不機嫌、脱力、食欲不振などの症状と呼吸困難、低酸素症を伴い細気管支炎を起こすことがあります。特効薬はありませんが、重症の場合には入院して輸液、酸素投与、鼻汁吸引などを行います。

予防のために、在胎35週6日までの早産児は、RSウイルスに対するモノクローナル抗体であるシナジスを投与します。

11.百日咳

現在では生後3か月になると、昔の3種混合ワクチンにポリオワクチンの混合された4種混合ワクチンを接種するために、赤ちゃんが百日咳にかかることはほとんどありません。しかし最近では大人の百日咳が流行しており、予防注射接種目前の新生児や乳児が感染することが報告されています。

百日咳に罹患すると、14日以上続く激しいせき込みとレプリーゼという息を吸入するときの「ヒューという汽笛のような音」が特徴的で、せき込みによる目のまわりの点状出血も目立ちます。せきがひどいときには録音して小児科医に相談しましょう。

しかしワクチン接種前の生後3か月未満の乳児期に百日咳に感染すると、せき込みはほとんどなくて逆に無呼吸発作を起こしチアノーゼが出現することがあります。また白血球が著増するので、血管の詰まりを予防するために交換輸血をすることもあります。3か月未満の乳児の百日咳は入院治療をします。周囲の大人や子供が百日咳に罹患した場合には、乳児に感染させないように感染予防が必要です。ワクチン接種が予防対策のかなめです。

12.下痢と脱水症のポイント

多くの場合にはウイルスや細菌などの病原体の感染による。ロタウイルスやノロウイルスによる下痢の場合には、集団発生することが多く冬場に流行します。ロタウイルス感染症の場合には短期間の発熱、頻回の嘔吐と下痢は水溶性の便ですべてではないが薄い黄色や白色となることが有名です。ノロウイルスも集団発生しますが便は白くなりません。嘔吐は翌日には減少します。

ウイルス性の下痢便は酸っぱい匂いがします。ウイルスにより腸粘膜の微絨毛が障害されるために乳糖分解酵素が減少して2次性の乳糖不耐症になりやすく、乳糖がブドウ糖に消化されずに乳酸ができて酸臭となります。ウイルス性急性胃腸炎では脱水症が心配となります。ポイントは排尿回数が目安になり、およそ1日2回以上の排尿があれば心配いりません。

脱水症の簡単な重症度分類では、体重減少の程度で決められています。普段の体重の3%以内の減少は軽度脱水で機嫌は良好です。3~9%の減少は中等度であり元気がなくて刺激に過敏となり、10%以上の体重減少は重症脱水症で意識が不明となり、眠りがちで入院して点滴治療を要します。

中等症までの脱水であれば点滴はしないで経口補水液で治療します。小児、特に乳児では日ごろの体重測定が大事で、記録を残しておきましょう。また、脱水の症状は排尿回数や尿量の減少のほか、皮膚や口の中が乾いていたり、おなかの皮膚の緊張が低下して張りがなくなったりします。活気が低下して、ウトウトしだしたら要注意です。また、興奮気味に泣き叫ぶ症状も緊急受診の目安です。

細菌性の下痢の場合には、発熱し、血便、粘液の排泄、悪臭があることが多い。O157を代表とする腸管出血性大腸菌、病原性大腸菌、カンピロバクター、サルモネラなどによる食中毒によることが多い。鑑別診断と確定診断のために便の培養が必要です。O157感染症では、菌の産生する毒素により血尿の存在が重症な溶血性尿毒症症候群(HUS)の診断に役立つので、検尿も行います。O157感染症の場合には、抗生剤を投与するタイミングに対する配慮が必要です。

ウイルス性の場合には抗菌剤の投与は必要ありません。また、細菌性の場合には下痢止めは使用しないのが原則です。頻回の下痢や嘔吐のために脱水や栄養障害になり体重が減少するので、診察するたびに体重測定をすることは経過観察中の患児の状態を客観的に評価する指標ですので重要です。

また、感染症以外にも下痢が起こります。先天性の吸収障害や消化酵素の異常による下痢、食物アレルギーやまれな原因ですが免疫不全でも下痢を合併します。年長児の血便を伴う下痢の中には、潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患があり、発熱、関節痛などの腸管外症状にも注意が必要です。

13.口腔内のカビ、鵞口瘡(がこうそう)

乳児のほほの内側に白いミルクカスのようなものが時々付いていることがあります。これはカンジダ症で、鵞口瘡という病気です。痛みのために哺乳量が低下することがあります。

人は誰でも口の中にはカンジダ菌が存在しますが、乳児は免疫力が弱いので健康な児でも時にカンジダが増えることがあるのです。大人でもHIV感染(エイズ)やガンなどにかかって免疫不全状態になると、口腔内にカンジダが増殖することがあります。抗真菌剤のシロップで簡単に治療できます。

入戸野 博