近視進行抑制効果が期待される天然成分「クロセチン」

本日紹介する内容は、第124回日本眼科学会総会内で主催予定だったロート製薬共催のランチョンセミナー「近視進行抑制研究の最前線」の内容の要旨です。ランチョンセミナーに参加するとついてくる弁当は当然もらえませんが、WEB配信で閲覧できただけでも収穫の内容でした。

近視進行抑制因子として、網膜内に存在するEGR1遺伝子の存在が注目されている。先日紹介した「バイオレット・ライト」の実験で用いたヒヨコの網膜を調べたところ、バイオレット・ライトを照射したことでEGR1遺伝子の発現が亢進されていたことが明らかとなった。すなわち、バイオレット・ライトによる近視進行抑制のメカニズムのひとつとしてEGR1遺伝子が関与していると考えられた。

そこで、EGR1をバイオレット・ライト以外の方法・・・食品成分として体内に取り入れることで近視進行抑制効果を示すことはできないか?と考えた。合計207種類もの食物由来天然成分、化合物をスクリーニングしたところ、サフランやクチナシに多く含まれる「クロセチン」という成分が非常に強いEGR1活性化作用を持つことが明らかとなった。このクロセチンを実験用マウスへ投与したところ、屈折の近視化だけでなく、眼軸長の伸展、脈絡厚の菲薄化(いずれも近視化の要素)も抑制されていたことが確認された。クロセチンの濃度を変えて検証したところ、マウスであれば0.001%より濃い濃度であれば有効な近視進行抑制効果が見られたことから、これを計算式を用いて人間(10歳前後の小児)の必要量に換算すると7.5mg/dayとなった。

・・・以上の研究内容を踏まえて、近視進行抑制のための栄養補助食品(サプリメント)として、慶應義塾大学医学部眼科学教室の近視研究チームがロート製薬と共同開発した製品が「ロートクリアビジョンジュニアEX」です。

先述したとおり、1日の必要量である7.5mgのクロセチンが配合されています。

今回のセミナーで学習したのですが、クロセチンには近視進行抑制効果の他にも、抗酸化作用・血流改善作用・眼精疲労を軽減する効果・睡眠障害を改善する効果・抗炎症作用・神経保護作用、etc・・・があることが過去の論文で報告されていました。

順伸クリニック眼科では、ロートクリアビジョンジュニアEXを購入することができます。飲み込む小さなカプセルタイプなので、カプセルが飲めない小さなお子様には、噛んで食べられるおやつタイプの姉妹品もあります。あわせて当院で販売しております。(最初に出たのがおやつタイプの「ロートクリアビジョンジュニア」で、より近視進行抑制作用に特化した製品として”EX”が後から販売されました。)

近視進行抑制に取り組みたいお子様と保護者の方は、どうぞお気軽に当院でお買い求めください。ホームページのサプリメントのコーナーでも紹介しています。

幼少時のテレビ視聴と学童期の視力低下の関連性

前回投稿と同様、第124回日本眼科学会総会においてWEB上で発表された演題の要約です。

幼少時における近方作業時間の増加は近視や内斜視の危険因子とされている。そこで、厚生労働省より調査対象の家庭に送付された調査票の返信内容をもとに、テレビ視聴及びその時間と小学生になってからの視力低下の関連性を分析した。

結果は、1.5歳・2.5歳の時にテレビ(ビデオ)視聴が主な遊びであった子供は、そうでない子供と比べると、その後の小学生になってから視力が悪くなった率が有意に高かった。

また、2.5歳時に1日のテレビ視聴時間が長い子供(2時間以上)は、視聴時間が短い子供(1時間未満)と比べると、その後の小学生になってから視力が悪くなった率が有意に高かった。

3.5歳・4.5歳・5.5歳時の1日のテレビ視聴時間と小学生時の視力が悪くなったこととは関連性がなかった。

結論として、1.5歳時及び2.5歳時のテレビ視聴とその後の小学生になってからの視力が悪くなったこととの関連が見られた。

・・・とのことです。

「生後の早い時期にテレビ視聴時間が長くならないように注意を喚起する必要がある」と発表では締められていました。

「近方作業」が近視を発症させる「環境因子」の大きな要因であることは間違いありません。それでは、近方作業の何が問題なのでしょうか?それは「時間」と「距離」だと思われます。つまり、近方作業をする時間が長ければ長いほど(続けるほど)近視になりやすく、見る物と目の距離が近ければ近いほど近視になりやすいのです。(理由は当ブログで後日紹介します。)

ですから、近視による視力低下でクリニックを受診された児童の方と保護者には、「勉強でもゲームでも、近くを見る時は時間が長く続かないように、適宜休憩を挟んで眼を休めましょう」「見る物と目の距離が近くなり過ぎないように30センチ以上距離を取りましょう」とアドバイスさせていただいています。

近代社会において、近方作業を一切行わずに生活していくのは至難の業です。そもそも、学生の本分である座学による勉強こそが近方作業の最たるものです。中学生になったらほとんどの学生が携帯・スマホを所持するでしょうし、小学校でもタブレット型電子機器を用いて授業を行っているところもあります。いまや就学前の幼稚園児を対象としたタブレット型の学習機器もあるほどです。つまり、現代を生きる子供達は近方作業とは最早どうやっても離れられないのです。では、近視を予防するためにはどうすれば良いのか?近方作業を営みながら、近視進行抑制のアプローチに取り組むしかありません。

前回は「屋外活動」について、今回は「近方作業環境の改善」について、近視進行抑制の観点から実際に発表された演題と絡めながら紹介しました。次回は「栄養成分(サプリメント)」について紹介します。

近視と屋外活動の関連性

屋外活動が近視進行抑制に重要であることはこれまで世界各国で発表された多くの研究から明らかになっています。

すなわち、屋外で過ごす時間が長い小児は近視になりにくいということです。

過去のある論文では、6歳前後に屋外で過ごした時間の長さが近視発症予防に重要である可能性が示唆されており、また12歳児を研究対象とした別の論文では、屋外活動が少なく近方作業時間が長い小児は、近方作業時間が少なく屋外活動時間が長い対照群より有意に近視を発症しやすい、とされています。

なぜ屋外活動が近視進行抑制に関与するのか?太陽光に含まれるバイオレットライトが網膜内の近視進行抑制因子をもつ遺伝子の発現を亢進させる、という「バイオレット仮説」に基づいた研究などが進んでいますが、未だはっきりとは解明されていません。

今回の学会の「近視研究」のセッションにおいて、都内某私立中学校の生徒の近視度数を実際に測定し(非近視群、近視群、強度近視群の三群に分類)、かつアンケート調査により得られた過去の屋外活動時間(未就学時、小学校低学年時、小学校中学年時、小学校高学年時)との関連性を検討した研究結果が発表されていました。

結果は、「小学校高学年児の屋外活動時間に三群間(非近視群、近視群、強度近視群)で有意差を認めた」とのことです。このことから、中学生における近視の度数は、小学校高学年時における屋外活動時間と関連性がある可能性が示唆された、と結論づけられています。

分かりやすく言うと、小学校中学年時以下の屋外活動時間の差と中学生になってからの近視度数との関連性は証明できなかった(有意差はなかった)一方で、小学校高学年時の屋外活動時間に差があると、それがそのまま中学生になってからの近視度数に関連付けられる(有意差があった)・・・この時期の屋外活動時間が少なければ少ないほど近視度数が強くなりやすい、ということです。つまり屋外活動が近視進行抑制に重要なのは大前提であり、そのなかでも小学校高学年時の屋外活動時間がその後の近視進行を最も左右する可能性があるのです。

近視の進行をできるだけ防ぐためには、小学校低学年時・中学年時だけでなく、小学校高学年(5年生・6年生)になっても引き続き外で遊ぶ時間を設けたほうが良いのですね。中学年時までは外で遊ぶ習慣があっても、高学年になって止めてしまっては中学生になってから近視がどんどん進行してしまう可能性があるわけです。

・・・しかしながら現実には、中学受験に臨む生徒は、小学校5年生頃から猛烈な受験勉強が始まるために塾通いなどで屋外活動時間が減少してしまうのはやむを得ないでしょう。一定の屋外活動時間がどうしても得られない受験生(に限らず、あまり外で遊ぶ習慣がない小学生)に対しては、点眼やワックなどの近視進行抑制のためのアプローチ法が積極的に導入されるべきであると考えます。